中部大学教育研究16
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1問題1.1人文学部のIT教育の必要性とIT環境最近では、人文学部の学生のほとんどが就く事務職や営業職でもある程度のIT知識や技術が要求される。そのため、人文学部の学生にも基本的なIT知識や基本的なアプリケーションの操作の教育は必要不可欠である。しかし、人文学部の学生は理系の学生に比べてコンピュータに対する興味が低いだけでなくコンピュータ操作への不安や嫌悪感などが高く、学習が円滑に進まないことが懸念されていた。井上輝夫前人文学部長は、人文学部の学生にコンピュータの親近性を高め不安や嫌悪感を払拭するためには、人文学部にも十分なIT環境を整備し、各学科の専門に即したIT教育を日常的に実施する必要があるとお考えになった。そして、それまで心理学科と英語英米文化学科にあった端末室に加え、日本語日本文化学科、コミュニケーション学科、歴史地理学科が利用できる3学科合同情報教室の設置を構想され、2009年度にそれが実現した。現在では、2514教室と282Aデータ分析室が人文学部のIT教室として用意されている。そして英語英米文化学科は語学演習や英語関連データ検索、論文作成、専門教育指導等に、歴史地理学科はGPSを利用した野外地理学や地理学実習等に、コミュニケーション学科は、映像制作、映像分析、CG作成等に、日本語日本文化学科は古典文学のデータベースを利用した古典教育等に、心理学科は、実験制御、Web調査、実験・調査データの統計処理等の教育に、これらのIT教室を利用している。1.2コンピュータ不安とは前節に述べたように、文系の学生は理系の学生に比べてコンピュータ操作への不安や嫌悪感が高い傾向にある。こうしたコンピュータ操作への恐怖感、嫌悪感、拒否反応はコンピュータ不安と呼ばれ(Cambre&Cook,1985)、そのコンピュータ利用や学習に及ぼすネガティブな影響が様々な角度から検討されてきた。これまでの研究から、コンピュータ不安は、コンピュータ操作能力の自己評価と負の相関を示すとされ(Simsek,2011)、学習を阻害し(Harrington,McElroy,&Morrow,1990)、コンピュータを敬遠させることがわかっている(Torkzadeh&Angula,1992)。したがって入学の時点で高いコンピュータ不安を感じている場合は、入学後のIT学習が円滑に進まないためにコンピュータ操作能力が伸長せず、それがコンピュータ不安をさらに高めるという、負のスパイラルに陥る可能性が高い。コンピュータ不安を低減して負のスパイラルに陥るのを回避させるためには、興味・関心や能力に即した教育を行うことで自己評価を高めること、そして、コンスタントにコンピュータを利用し続けさせることで緊張を緩和することが必要だとされる(Necessary&Parish,1996)。そこで、水野・嘉原・柳谷・渡部・ヤーッコラ(2010)は、人文学部新入生の興味・関心の高い専門領域に関わるIT知識・技術を、その能力に応じて毎週コンスタントに教育し、コンピュータ不安を低減しようと考えた。そして、その方針のもとで新入生のIT教育を実施し、入学直後と1年後のコンピュータ不安を測定・比較した。その結果、そうしたIT教育が5学科すべての新入生のコンピュータ不安の低減に役立ったことが明らかとなるとともに、各学科に特有の問題点が浮き彫りとなり、IT教育を改善する指針が得られた。2目的人文学部5学科のIT委員は、その後も上記研究(水野他,2010)で得られた指針をもとに、各学科のIT教育を改善した。そして、その改善が新入生のコンピュータ不安の低減に有効だったか否かを確認するために、2011年度から5年間、毎年、入学直後と年度末の2回にわたって新入生に対してコンピュータ不安調査を実施して1年間のコンピュータ不安の変化を明らかにし、その結果を毎年、各学科のIT教育の一層の改善に役立ててきた。本研究は、その調査データを横断的・縦断的に分析し、学生の動向、教育の有効性、今後の課題等を明らかにすることを目的とする。―13―中部大学教育研究№16(2016)13-24新入生のコンピュータ不安低減へのIT環境・教育の効果の検討-人文学部5学科の5年間の縦断調査結果-水野りか・GregoryKing・柳朋宏・渡部展也・柳谷啓子尾鼻崇・永田典子・嘉原優子・山本裕子

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