中部大学教育研究16
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ヤング大学(BringhamYoungUniversity)とユタ・バリー大学(UtahValleyUniversity)で行われている取組を持ち帰って始めたSCOT(studentsconsultingonteaching)の活動が教育診断に相当するであろう。帝京大学や芝浦工業大学では、十分な研修・支援を受けたSCOTが、希望する教員の授業コンサルティングを行い、SCOT本人にもコンサルティングを受けた教員にも大きな収穫が報告されている(井上・土持・沖、2012年、170-173頁)。しかしながら国内では、学生が実際に授業で用いる学習教材を作成したり、カリキュラム編成の正式な委員として就任したりする事例は見当たらない。学生参画型FDにおいて、あるいは学生自治会との連携において、研修や十分な支援を受けながらこの分野における先駆的な取組が求められるところである。3日本の高等教育における「学生参画」の概念の再整理日本においては、文部科学省や中央教育審議会からの強い要請もあり、上からの改革として「教授と学習のパラダイム転換」や「学習者中心主義」の思想や取組が高等教育に浸透しつつある。これらは、本来、教育学者や大学に勤務、在籍する教職員や学生から進められるべき運動であったが、1960年代に全国に吹き荒れた大学紛争、学生運動の影響もあって15)、ほとんどの大学で1991年のFDの実施が謳われた大学設置基準の大綱化まで未着手の状態であった。紛争終息後約30年間、大学教育の本質がほとんど変化しなかった点については、同じく激しい学生運動を経験し、それ以降、学生を大学運営にまで関与させる取組を一歩ずつ進めてきた欧州圏、特にイギリスとの大きな違いであると言えよう。一方、教育改革に絡んで、授業のみならず学内のさまざまな活動に学生をピア・サポーターとして活用しようとする動きは、それに遅れて10年近く経過した2000年に、文部科学省から報告された「大学における学生生活の充実方策について-学生の立場に立った大学づくりを目指して-」(通称、廣中レポート)を契機として全国の国公私立大学に広まった。ピア・サポーターは学生が主体的に参画する授業や学習を作るために大きな影響力を持つ仕掛けの一つだが、当初は学生支援を厚生補導と呼んでいた大学にとって晴天の霹靂の発想であった。しかし、文部科学省や中央教育審議会からの度重なる指導、答申や、GP(goodpractice)、AP(AccelerationProgramforUniversityEduca-tionRebuilding)16)等の政策誘導もあって、徐々にではあるが学内のさまざまな活動に学生が主体的に関与するという新たな発想も大学に受け入れられ始めたと言えよう。これには進学率がユニバーサル段階に達し、多様な学生が入学するようになったことと、2000年代に入って大学の定員確保の競争が激化する中、自らの大学のPRとして教育方法や学習成果を重視せざるを得なくなったことが影響していると言える。ただ、その内実は2.1節で述べたとおり、依然、ほとんどが「教授学習と研究における学生参画」による教育改革での活用であり、「教授学習の実践と政策の向上」の領域にまで踏み込むものではなかった。その中で一種の驚きは、伝統的に「全学協議会」や「全構成員自治」という、学生自治会が教学政策を含めた大学運営に関与する仕組みを持っていた立命館大学、創価大学、龍谷大学等において、欧米の最先端と同様の「教授学習の実践と政策の向上」の領域における学生参画を実現していたことである。2001年、岡山大学で学生が委員長を務める公的な委員会組織である学生・教職員教育改善専門委員会が発足したのを契機に、立命館大学、大阪大学、追手門大学、愛知教育大学などで次々と学生FDスタッフや学生参画型FDの活動が始められた。これらは、日本の大学においても学生が授業のみならず教学全般に関して意見を述べ、教職員と連携して改革を進める運動の端緒を作ったと言えよう。学生参画型FDは、依然、ピア・サポート・プログラムとの切り分けや、学生FDスタッフの定義や位置づけに混乱が見られるが、これらの活動は「教授学習と研究における学生参画」を超えて「教授学習の実践と政策の向上」にまで踏み込むものであり、今後の発展によっては「学生連携」の範疇にまでその活動を発展させる可能性を秘めているものと言えよう。また、すでに帝京大学では2012年度よりSCOTの活動が開始され、海外の事例と遜色のない「カリキュラム設計と教育診断」に関わる学生連携が実現している。ここで、これまで検討してきた新たな学生参画の範疇とその一部をなす学生連携の活動について、HEAが示す4つの領域に関して国内の活動のどれがどこに相当するかを見てみたい(表1)。これは国内の学生参画に関わる活動を国際的な文脈で語るために必要な作業であるとともに、その到達点を確認するものである。4まとめにかえて筆者はこれまで学生参画を「教授学習と研究における学生参画」のみに限定して日本の学生参画の事例を検討してきた。しかし、帝京大学でのSCOTの活動をはじめ、多くの大学で学生FDスタッフの活動(ただし精査した上の一部の活動)が開始されたり、各大学のFDのミッションや定義に「学生参画」が謳われ始―8―沖裕貴

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