中部大学教育研究16
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として、学生主導では学生を変化のエージェントとして捉えるものである(DunneandZandstra,同上)。大学主導では、学生は教職員と学生の学びの向上・強化のために、カリキュラムの策定や専門性開発(professionaldevelopment)における協働的パートナーとしての役割を担う。また学生主導では、学生は教育的知識の獲得と専門性開発に変化をもたらす協働的なパートナーの役割を担う。しかし、改革や行動の決定は基本的に科目もしくは機関レベルで行われる傾向にある。ただし、この分野の学生連携の取組の多くは「教育と学習の学識」だけでなく、後述する「カリキュラム設計と教育診断」の事例と共通で、区別がつきにくいのが実情である。「教育と学習の学識」に含まれる学生連携に関わる具体的な事例としては、大学主導のものであるが、2008年より学士課程教育の学習教育インターンシップ・プログラム(UndergraduateLearningandTeachingInternshipScheme)を要するウェスタン・オーストラリア大学(UniversityofWesternAustralia)のものがある。このプログラムでは10~15名の学生が、大学が優先順位をつけた教育・学習課題、たとえば初年次教育におけるものを調査する研究インターンとして3,000オーストラリアドルの賃金を支払われている。学生は、研究方法における訓練を含め、きめ細やかな支援を受けながら調査を行い、将来の政策実行に役立つ貴重な調査報告書を執筆、提出している(Sandoveretal.2012,pp.33-39)。また、イギリスのエクスター大学(UniversityofExeter)の事例は学生主導のものである。そこでは2008年度以降、大学からの資金によって機関や科目の課題を調査する100を越す「変化のエージェント(studentsaschangeagents)」のプロジェクトが立ち上げられ、何千人もの学生を動員して、フォーカス・グループや非公式インタビュー、質問紙調査などの手法を用いた研究成果を年次学生スタッフ会議に報告してきた。これらの学生の研究は組織的な変化を生み出し、学生参画を大学内の政策と実践の変化へと動かすことに貢献するとともに、学生の、研究やプロジェクト・マネジメント、研究成果の発表や、リーダーシップ、組織開発(organaizationaldevelopment)の分野における卒業時の能力開発にも役立っているという(Sandoveretal.同上)。次の事例は恐らく大学主導の範疇に入るものだと思われるが、学生自治会と協働して推進するイギリスのバーミンガム・シティ大学(BirminghamCityUniversity)の事例である。そこでは学生が大学から給料をもらって研究者の立場で雇用され、教職員のパートナーとして新しい学習資源やカリキュラムの開発、あるいは新しいイノベーションや変化の評価といったプロジェクト活動に従事している。留意すべきは学生が助手ではなくパートナーとして、あるいは受け身ではなく共同創造者として雇われていることで、いくつかのプロジェクトは学生自身の手によって運営されているという(BirminghamCityStudents'Union,2010)。これらの事例は「教育と学習の学識」というよりは、「カリキュラム設計と教育診断」にも合致する取組であるが、大学主導、学生主導に関わらず、学生と教職員が協働で教授学習に係る課題の調査研究に従事し、その成果を教育改革に活かす取組が、もはや「学生の声を聞く」や「学生が意思決定に参加する」というレベルを超えて進みつつあることを知る必要があろう。国内では、2001年に、学生の教育や教育環境の改善に関する要望を専門的に受け止めて議論する公式の委員会組織として岡山大学教育開発センターが発足させた、学生が委員長を務める「学生・教職員教育改善専門委員会」が学生連携の事例に相当するだろう。また、立命館大学においても前述の産業社会学部のD-PLUSの活動の中には、マネジメントチームとして学部への施設改善提案(PCラウンジのレイアウト変更や使用に関する提案、CreativeLabリニューアル、プリンター増設等、利用する学生の視点からの数々の提案)を行ったりしている例もある(福田2013年;福田・土岐、2013年)。さらに大学・学部からの学生目線での施設・設備改善提案、あるいは委託調査研究などを請け負うレインボー・スタッフ(ICT支援)、キャンパス整備プロジェクトなど「学生業務スタッフ」と呼ばれる団体もいくつかあり(沖、2015年、19頁)、国内の複数の大学ではすでに学生連携の萌芽が見られると言ってよいだろう。(4)カリキュラム設計と教育診断ここでの事例は前節の「教育と学習の学識」を補足するもので、それらはアーンシュタインの学生参加の階段(Bovil&Bulley,2011)の最高レベルを表すものである(図4)。しかし、カリキュラム設計においては学生と教職員の専門性が大きく異なり、その連携は学生がカリキュラム設計の判断を完全にコントロールするものではなく、また教職員が完全にコントロールするものでもない。意思決定に関する相対的なコントロールのレベルと連携の適切なレベルは文脈や研究のレベル、学生と教職員の相対的な経験のレベル、カリキュラムの専門的な影響のレベル等に依存して決められる。この分野の学生参画としては、授業アンケートや学生調査、ENQAやQAAで見られる質保証活動への学―6―沖裕貴

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