中部大学教育研究16
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動を行う国内のピア・サポート・プログラムの事例だと言えよう。さらに学生自らが授業を発案し、講師を委嘱する活動としては、関西大学の一般教育で実践されている学生提案科目が相当するかもしれない。そこでは学生達の要望や願いをピア・サポーターである学生委員が聞き取ったうえでシラバスに落とし込み、それを実施してくれる教員に託して開講するという手続きが取られている(三浦・松田、2016年、1-13頁)。また、同様の取組が岡山大学、追手門大学でも見られるが(木野、2012年)、国内においてもこの領域における学生連携は一定の発展を見せていると言えよう。(2)教科ベースの研究と探求教科ベースの研究と探求に関する学生参画としては、日本の高等教育でかなり広く見られる専門ゼミの形態が想定される。一般的には図3に見られるように、学士課程教育における学生の研究への参画には4種類の形態があると言われる。主に「研究主導型」と「研究志向型」が従来型の学生参画、「研究教授型」と「研究型」が学生連携に相当すると考えられる。図3において、日本では専門ゼミの多くが学生を聴衆として参加させる研究主導型もしくは研究志向型になりそうだが、一部の理系の学部においては研究室の実験・実習に主体的に、あるいは教員から割り当てられて参加し、本物の研究の一翼を担うものもあると思われる。あるいは海外でもいくつかの事例が報告されているが、学生を「プロデューサーとしての学生(studentsasproducers)」や「学者としての学生(studentsasscholars)」として育成する授業で、本物の研究プロジェクトに従事させたり、実際の映画制作を行わせたりして、多くの専門家の支援を受けながらも現実の研究や探求に従事することを通して「教え学ぶパラダイム」から「創作するパラダイム」や「発見するパラダイム」への移行を促進している9)。これらの実践事例は学生をパートナーとして扱う研究教授型や研究型に相当するであろう。しかし、学生連携という意味では研究教授型や研究型に近づくことが望ましいが、大学が研究大学か否かや、そこで学ぶ学生のレディネスや専門性の程度に大きく依存する可能性があるのは言うまでもない。(3)教育と学習の学識(SoTL)教育と学習の学識とは、専門の中で学生がどのように学ぶのかについて研究し、理論化することや、そこでの発見を議論し、普及する活動を含んでいる。しかし、多くの場合、これらの活動は教職員によって進められてきた。教育と学習の学識における学生参画の具体的な事例としては授業アンケートや学生調査、あるいは学生自治会等を介して学生の声を収集することで、それらを通して学部・学科のカリキュラムや授業を変革する活動が中心となる。これには大学主導と学生主導があり、大学主導では学生を高等教育における経験の評価者として捉え、学生からのフィードバック、見解、意見を収集し、エビデンス・ベースで改革に結びつけることが主眼である。ただし、改革や行動の決定は科目もしくは機関レベルで行われる傾向にある。一方、学生主導では学生を意思決定過程における参加者として捉え、学生自身が機関の向上と変化に影響を与えるために機関の意思決定に参画するものである。また、改革や行動の決定も教職員と学生双方の協働で行われる傾向にある(DunneandZandstra,2011,p.17)。立命館大学における「学びと成長調査10)」は前者の、学生自治会が参加する全学協議会での議論を通じて大学の教学方針を決定する仕組み11)は後者の事例であり、特に後者は学生主導で行われる「教育と学習の学識」に関する学生参画の国内稀有な事例であり、学生連携の域にまで達している事例と言えよう。またこれは、ENQAやイギリスのQAAが提唱する、大学教育の質保証や質向上、さらには大学運営にまで主体的に参加する学生参画の取組に通底するものであると言える。一方、さらに進んだ学生連携に関連する取組にも大学主導と学生主導があり、大学主導では学生をパートナー・共同創作者・専門家―5―日本の高等教育における「学生参画」の概念の再整理の試みResearch-tutoredResearch-basedResearch-ledResearch-oriented図3学士課程教育における学生の研究への参画形態(Healey&Jenkins,2009,p.7)

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