中部大学教育研究16
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で働いている現状から考えても、お互いの国に経済的メリットがあることは一目瞭然である。このように経済連携協定のもとで推進されたインドネシアとの関係であるが、経済活動の連携を更に強化する目的もあり、これまで日本が受け入れを認めてこなかった看護及び介護分野に2008年8月からインドネシア人看護師の受け入れを行うことになった。4経済連携協定看護師・介護福祉士候補者経済連携協定(EPA)看護師・介護福祉士候補者制度とは、経済連携協定のもとで来日した外国人看護師が自国と日本での日本語研修ののち、それぞれマッチングで決まった受け入れ施設で約3年間、「就労/研修」を行い、その間に日本の国家試験に合格して日本の看護師及び介護福祉士として就労する制度である。国家試験に合格すると、在留期間の制限がなく就労することができる。2016年9月現在インドネシア(2008~)、フィリピン(2010~)、ベトナム(2015~)の3カ国から受け入れを行っており、看護師候補者994名、介護福祉士候補者2,069名の計3,100名が来日した。この受け入れについて、厚生労働省は、看護や介護人材の不足を補うための労働者としてではなく、相手国の強い要望により受け入れることになった経緯があると強調している4)。彼らの在留期間は3年注2)であり、その間に日本の看護師国家試験の合格を目指す。今までに看護師国家試験に合格した人は201名(20.2%)であり、3~4年在留している人に限っては、30%前後が看護師国家試験に合格している。入国者の3~4人に1人の割合で合格しているのである。2012年からは准看護師試験を受験する看護師候補者も増えた。県単位の試験であるため、正確な数字は定かではないが、かなりの数の外国人准看護師が輩出されている状況である。なお介護福祉士国家試験合格は45.1%の合格率となっている。5インドネシア人看護師のその後EPA看護師候補者達は、日本の看護師国家試験に合格すれば、在留期間の制限なしで日本の病院で就労することができる。日本で看護師として就労する人たちもいるがその一方で看護師資格を取得して帰国する人たちも少なくない。筆者の前調査(2013)では、インドネシアに帰国後、邦人クリニックで働いている人や病院に再就職した人、日本語通訳をしている人もいることがわかった。EPAで来日して看護師、准看護師資格を取得した人、あるいは取得できなかった人達はインドネシアに帰国した後、それぞれ日本で学んだことをどのように活かしているのだろうか。今回は、Aさんに密着し現在の状況を調査した。Aさんは、インドネシアで看護専門学校を卒業後、看護師資格を取得し、インドネシアの病院で3年半の就労経験を持つ。2009年、EPA看護師候補者制度第2陣として来日した。日本で就労/研修をした病院は、療養型の300床ほどの病院であった。毎日、看護師候補者として、オムツ交換、入浴介助等の就労を行い、就労時間内に1時間の学習時間も設けてもらった。2013年3月にZ県の准看護師試験に合格したが、同月結婚のため、インドネシアに帰国した。帰国後より、インドネシアの医療サービスを行うWellBEインドネシアに就職し、日系企業で働く日本人が、病気やケガでインドネシアの病院を受診するときの通訳をする「医療アテンド」の仕事に就いた。2013年に結婚、2014年には出産をし、現在は1児の母である。日本で取得した准看護師資格と、日本語能力試験N3級注4)が現在の仕事に役立っているという。6日系企業とインドネシア近年、インドネシアに進出する日系企業が増加している。帝国データバンク5)によると、2014年6月にはインドネシアに進出している日本企業は1,763社となっており、これは2012年3月の調査より39.3%の増加である。進出企業の内訳のトップは「製造業」が932社(成比52.9%)であり、更にそのうちでは、自動車関連産業が多く占める。これに伴い、インドネシアに在留する日本人も年間1,000人~2,000人単位で増加している。2015年では17,893人の日本人がインドネシア国内で生活をしている6)。(2015年10月1日現在)日本人がインドネシアで生活する中で、時として病気にかかることもある。この時に利用するのが医療アテンドである。WellBEインドネシアの資料によると現在の会員登録企業は約640社、会員登録数は約4,300名、医療アテンド活動件数は月に450件とある。単純に計算しても1日15件のアテンドが要請されていることになる。現在WellBEインドネシア(ジャカルタ、リーポチカラン、スラバヤ)で働く医療サポートスタッフは15名おり、そのうち13名はEPAで来日し、日本の病院で勤務した経験がある人達である。残りの2名も日本語学校に留学しながら日本の老人施設で就労経験がある。また15名のうち8名(53.0%)は、看護師国家資格もしくは准看護師資格を有している。彼らは、日本で学んだ日本語や看護スキルを活かしてインドネシアで働いている。今回驚いたことに、Aさんの日本語力は3年前に日本で会った時より上達していた。日本に在住していた時は、たどたどしい単語中心であったが、現在では、―106―新美純子

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