中部大学教育研究16
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生評価(studentassessment-as-learning)」と呼ばれる長期的ルーブリック(カリキュラム・ルーブリック)に基づいて大学が掲げる8つの能力7)に関する学生の自己評価を蓄積し、学生各自の卒業時の学習成果を保証する根拠資料に用いている(沖、2016a年、10-11頁)。立命館大学における授業アンケートも2014年度より、教員の授業技術を問う設問から学生の学びの質や内容を問う形態に移行している。これらも学生連携の一事例と考えても差し支えないが、「学習・教育・評価」で扱うところの「評価」は学生個人の形成的評価を指すことが多い。したがって集合調査として利用する場合にはむしろ「教育と学習の学識」や「カリキュラム設計と教育診断」の活動に該当する。一方、学習と教育に関する学生連携の事例としては、ピア・サポート・プログラムにおける「教え合い」が関わることが示されている。その特徴は、学生が通常の自己認識の外に踏み出し、教師になり、そこから学習において他の学生を支援するパートナーとして行動することであるという。イギリスでは、日本で一般的にピア・サポート・プログラムと呼ばれるもののうち、議論や共同学習のファシリテーションに関わるものをピア・アシステッド・ラーニング(PAL)と称することが多い。イギリスにおいてPALは1990年代の初めに登場し、主に訓練された二、三回生がPALリーダーとして、一回生の小グループの学びを定期的に指導するものであるという。またPALリーダーは、「その授業の正式な構成と連携する枠組みにおいて活発な議論と共同学習を担う学生」として定義されている(Capstick,2004,p.1)。たとえば、ウェストオブイングランド大学(UniversityoftheWestofEngland)では、学士課程と修士課程の二回生がPALリーダーとしてそれぞれの課程の一回生の学習を支援している。現在、「芸術、産業、教育」や「環境と技術」の分野における授業に関して1,200名のPALリーダーが71の学習支援プログラムを行い、6,000名以上の学生が参加し、定常的な出席者はそうでない者に比べて高い成績を得ているという。また、近年、そのプログラムはPALリーダーに一般的な研究や就職スキルに基づいて図書館や就職支援に従事させたり、またグローバルPALにリーダー養成を担わせるものにまで拡張されてきたという。PALは、大学生活への素早い適応や、学習スキルの改善、授業の理解の深化、自律的な学習者になるための支援などを秘密厳守で、小グループ単位にさまざまな資料を用い、受講者が自ら答えを見つけられるように議論をファシリテートしながら行われる。なお、PALリーダーになるためにはPALセッションと呼ばれるかなり高密度な訓練を受ける必要があるが、PALリーダーを経験したことで学業や就職に大きなメリットが保証されている(UniversityofWestEngland,2012)8)。さらにスウェーデンでは、アップサラ大学(UppsalaUniversity)とスウェーデン農業大学(SwedishUniversityofAgriculturalScience)で主に夜間に開催される学際的な授業を学生が設計し、講師陣を任命しているという(Matilda,2011)。これらの事例を見ると、立命館大学のピア・サポート・プログラムに含まれる、初年次教育や正規授業でリーダーや授業アシスタントを務める「オリター/エンター」や「ES(EducationalSupporter)」をはじめ、図書館で活動する「ライブラリー・スタッフ」や、学生向けのAdobe講座や映像編集講座を自主的に開催する産業社会学部の「D-PLUS」、教育実習に近い自律的な教授学習活動を行う薬学部のファーマ・アシスタントやスポーツ健康科学部のアドバンスト・コーチング・プログラムの活動(沖、2015年、10-11頁)なども、学生参画はもちろんのこと、学生連携の範疇に該当する可能性があると言える。ただし活動の形態や関与の仕方によっては、まだまだ教員の手伝いや簡単な業務を担うだけのケースも散見され、学生が主体的に学習モジュールを設計し、担当するところまで行っているケースは少ない。この分野で海外の事例に近い学生連携だと言える取組は、東洋大学の「ミクロ経済学演習」「マクロ経済学演習」におけるSA(studentassistant)の事例であろう。東洋大学経済学部では、入学時の数学のテストや先行科目の成績により習熟度別に80~90名の3コースを編成し、1単位の選択演習科目を開講しているが、その演習後に当該講師とSAが4~5名で80分間のオフィスアワーを実施し、多くの受講生が利用している。当該講師が基本的に同席することが多いが、出席した受講生の上記科目の成績が統計的有意に向上するなどSAの貢献が顕著であり、SAがピア・サポーターとしてPALに近い活動を行っている事例だと言えよう(巽・東・児玉・佐藤・澤口、2012年、11-23頁)。また、立命館アジア太平洋大学で取り組まれている学部TA(teachingassistant)は、必修科目である「新入生ワークショップⅡ」において、全初年次生1,400名を対象にそれぞれ25名ずつの小クラスを日英両語でファシリテートする活動を行っている。学部TAは2名体制で、教員とリーダーTAとの綿密な打ち合わせのもと、小クラスの準備から当日の授業の運営、振り返りと内容共有のための事後打ち合わせまでのすべての業務を実質的に担当している(秦・平井・堀江、2016年、65-82頁)。この事例もPALに近い活―4―沖裕貴

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