中部大学教育研究16
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1はじめに筆者は、2016年8月15日から6日間、インドネシア・ジャカルタに調査のため渡航した。調査の目的は、「経済連携協定で来日したインドネシア人看護師」の帰国後の現在の状況を現地で取材するためである。本稿では、日本で約4年、経済連携協定看護師候補者として就労/研修をした後、インドネシアに帰国したインドネシア人看護師についての事例を報告する。2成長が著しいインドネシアアジアの中でも成長が著しいインドネシアであるが、渡航前の筆者は、写真などでジャカルタの都会ぶりは目にはしていたが、正直なところ、開発途上国で貧しい国という勝手なイメージを持っていた。しかしそれは、空港に降りた瞬間に覆った。空港からジャカルタまでの道のりは、高層ビルが立ち並び、近代都市と呼ぶにふさわしい状況である。ジャカルタに至っては、ショッピングモールが数多くあり、世界各国のブランドショップに様々な種類の飲食店が並ぶ。日本でも有名なAKB48の姉妹グループであるJKT48劇場も毎日大勢の人達でにぎわっている。道路は渋滞が日常茶飯事であり、片側3車線の道路に自動車とオートバイがひしめき合う。よく見ると、車もオートバイも日本車が多い。トヨタ、ホンダ、スズキのエンブレムが渋滞の中であちらこちらに見える。中古車になっても値段が下がらない日本車の信頼は高く、自動車のシェア95%が日本車である。オートバイでは99%が日本製であり、シェアを独占している1)。伝聞ではインドネシア人は日本車に乗ることに強い憧れを持っている。ジャカルタポスト2)によると、インドネシアの人口のうち年間収入が2040万ルピア(204,000円)以下の低所得層が占める割合は22.1%、年間収入6560万ルピア(656,000円)以上の高所得層中間層は、17.0%、残りの中間層(204,000円~656,00円)が60.9%であるとしている。インドネシアでは、トヨタ・カローラやホンダ・フィットクラスの車が200万円前後である。日本で車を購入するのと大差がない。年収の4倍ほどもする車をローン組んで購入しているのである。昨今、日本国内の企業の多くが海外進出しているが、インドネシアに進出する日本企業も多くなっている。インドネシア人、一人当たりのGDP(国内総生産)も年々増加しており、益々の経済成長が期待されている。写真1コーランが響きわたる朝靄のジャカルタ市内3日本-インドネシア経済連携協定インドネシアは人口2.55億人(2015,インドネシア政府統計)の東南アジアの大国であり、世界第4位の巨大市場である。インドネシアと日本の経済連携協定(EconomicPartnershipAgreement以降EPA)は2008年7月に発効した。これにより関税が削減、撤廃されることで、貿易の自由化が進み、両国の経済を活性化させることができる。また経済的な関係を深めることで、政治的な関係も強化されると言われている。2008年以降のインドネシアとの輸出入の動向をみると、輸出に関してはリーマンショック後の2009年には一時的に落ち込むことはあったが、車両などの輸送機器が年平均18.2%の伸び率を示している。一方、輸入に関しては2008年の締結直後に増加をしたが、リーマンショックの際に大きく落ち込み、現在もまだ回復はしていない3)。しかしインドネシアは、豊富な若年層がおり、毎年400万人が生産年齢人口に参入する注1)。これらの豊富な人材をEPAや技能実習制度を使って日本に人材を送り込み、それにより外貨を獲得している現状もある。日本の輸送機器がインドネシアに輸出され、多くのインドネシア人が日本車を購入し豊かな生活を手に入れている。また多くのインドネシアの若者が日本―105―中部大学教育研究№16(2016)105-108《エッセイ》ふたつの国で日本人を支えるインドネシア人たち-経済連携協定看護師の事例から-新美純子

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