中部大学教育研究16
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肺蘇生の実施率が低いという実情27)を解決することが重要であるが、心肺蘇生法を取り入れた種目を行えば、心肺蘇生を実施するバイスタンダーを増やすことにもつながると考えられる。3.2.2防災ウォーキング(図1のC)財源・施設の調整の必要がなく、多くの人が実践しやすいスポーツがウォーキングである。ウォーキングの中でも、避難所までのルート確認を行うものは防災ウォーキングと呼ばれている28)。川島と古屋(2015)は、全ての世代に関心のある防災を糸口にすることで、住民同士のつながりの重要性を認識できると考え、地域の人々(子育て世代の親とその子供、民生委員、自治会関係者、区役所職員、ボランティア)を対象とした防災教育と防災ウォーキングを実施した28)。実施後のアンケートにて「住民同士のつながりの必要性を感じた」「参加することで知り合いができると感じた」などの回答が得られている。このことから、防災ウォーキングを通してコミュニティ形成に良い効果が得られることが示唆される。ただし、ウォーキングは単調な運動であることから、飽きを防ぐための工夫が必要である。ウォーキングは健康づくりを目的として行われることが多いことから、健康づくり効果を高くする指導が含まれたウォーキングの実践が良いのではないかと考える。例えば、普段使っていない筋肉や関節を動かすための歩き方の指導や29)、運動強度の管理方法に関する指導29)、ストックを使用したウォーキングの効果と実践方法30)に関する指導などが挙げられる。以上のような地域住民が参加する防災スポーツイベントを運営する主体として、学生消防団員やスポーツを専攻する学生が適している。防災スポーツイベントの運営を通じて、次節に述べるように、地域活性化に資する人材として成長するための教育的効果が得られると考えられる。4防災スポーツイベントの教育的効果防災スポーツイベントの運営を通じて、大学生が地域活性化に資する人材として成長する上で必要な教育的効果が得られると考えられる。1点目は、地域社会に必要とされるスポーツ指導や防災のスキルを、実践を通じて獲得することができる点である。2点目は、親交的・自治的コミュニティ形成の2つの側面から地域活性化を図るための視点を持つことができる点である。将来、地域スポーツに携わりたい者は親交的コミュニティの形成に、地域防災に携わりたい者は自治的コミュニティの形成に意識が向きがちであると想像できる。しかし、実際の地域社会は2つのコミュニティの特徴を併せ持っている。この2つの側面を防災スポーツイベントの中で意識することができれば、広い視野を持った真に地域活性化に資する社会人になると考えられる。3点目は、「人間関係を築く力」を学ぶことである。本論では、スポーツと防災を切り口とするコミュニティ形成の過程においては、他者に対する保守的態度や、他者への一方的な価値観の押し付けという、人間関係に関連する要因がコミュニティ形成の阻害因子になることを述べた。岡(2013)は、自殺率の低い町、すなわち生き心地の良い町の特徴として、人の多様性を認め、人間関係が固定していないこと、必要があれば援助するといった比較的淡白なコミュニケーションが行われていることを挙げている31)。このような点に気を配りながら防災スポーツイベントに取り組むことにより、コミュニティ形成に必要な人間関係を築く力を身に付けることができる。4点目は、「持続可能な社会づくり」に必要な能力と価値観を形成できる点である。地球温暖化などの環境問題、貧富の格差といった社会問題、超高齢社会における医療・介護費の増加に代表される経済問題など、あらゆる分野で社会が持続不可能な状況が生じている。そこで、全ての人に持続可能な社会の実現に向かう意識(価値観)と行動の変革をもたらすことを目標とする「持続可能な開発のための教育(Educationforsustainabledevelopment:ESD)」が国際的に推進されている32)。ESDは「地域づくりに参画する態度の育成」の他、「コミュニケーション能力」「多様性の尊重」「非排他性」などの諸課題の解決に必要な能力と価値観を重視している32)。これらは、防災スポーツイベントにおいても重視される能力と価値観である。5超高齢社会におけるスポーツと防災を融合した活動の意義現在の日本社会に求められることは、持続可能な超高齢社会を実現させるための方策である。高齢者は、マズローの欲求階層説に従い「衣・食・住」「安心・安全」が満たされた後は、より高度な欲求である「楽しむ」「繋がる」「教える」「学ぶ」へと高まり、これらが満たされることが生きがいになるとされる33)。高齢者が防災スポーツイベントのようなスポーツと防災を融合した活動に参加することで、「安心・安全」「楽しむ」「繋がる」等が実現できる。これに加えて、運営主体の大学生が「高齢者から貴重な経験を教えてもらう、学ばせてもらう」という態度を持つことができれば、自分自身が成長するだけではなく、高齢者の生きがいを創出することになる。そのような両世代の歯車が噛み合った状態こそが持続可能な超高齢社会の原動力となり、このような原動力を持つコミュニティを形成することが、超高齢社会における地域活性化の重―102―尾方寿好・西垣景太・藤丸郁代

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