中部大学教育研究16
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3大学生が主体となり運営するスポーツと防災を融合した活動3.1学生消防団員による防災スポーツイベントの運営(図1のA)地域における消防防災体制は、主に常備消防、消防団、自主防災組織から構成される15)。このうち、常備消防と消防団が市町村の消防機関であり、その構成員は地方公務員となる。常備消防が消防本部や消防署に常時詰めて対応する専任の職員で構成される機関であるのに対し、消防団は他に本業を持ちながら、権限と責任を有する非常勤特別職の地方公務員として、「自らの地域は自らで守る」という郷土愛護の精神に基づき、消防・防災活動を行う機関である16)。消防団の特性は3つある16)。1つは“地域密着性”であり、消防団員は管轄区域内に居住または勤務する。2つ目は“要員動員力”である。平成27年4月1日現在では、常備消防職員数の約16万人に対し、消防団員数は5倍以上の約86万人である。3つ目は“即時対応力”である。日ごろから教育訓練を受けて、災害対応の技術・知識を習得している。実際に、このような特性を持つ消防団が、阪神淡路大震災や東日本大震災時の災害防御活動、地域住民の避難・誘導、被災者の救出・救助等に大きな役割を果たした12),17),18)。「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律」においても消防団の役割が強調されている。しかし、近年、消防団員数が年々減少していることに並行して平均年齢が高くなっていることから、若者の入団促進を図っていく必要性が訴えられている15)。そこで、「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律」の第12条では、大学等の学生が消防団活動をしやすくなるよう、大学等に対する協力についての規定が記されている。大学生により構成される消防団の先駆的な例が千葉市の淑徳大学の学生消防団である。淑徳大学では、大学キャンパス内に消防団分団を設置し、「消防職員の活動の後方支援」「広報活動」「応急救護」等を行っている19)。また、東海学園大学の学生により構成される消防団分団も設立されている。この分団の主な任務は、平常時における「救急救命技術の習得」「防災知識の習得」「講習会、研修会への参加」「消防団行事への参加」および非常時における「避難所等から災害対策本部等への情報伝達の支援」「救護物資等の配布、管理の支援」「応急救護所等での救護活動の支援」「避難所等での外国人避難者に対する通訳活動の支援」「地域と密着した広報活動の支援」である20)。学生であるため安全性に配慮された活動に限定されるものの、公務員としての自覚と責務を持った防災活動を行う。彼らが、以下に示すような防災の要素が組み込まれたスポーツイベント(防災スポーツイベント)を運営することにより、親交的コミュニティ形成の中に自治的コミュニティ形成を促す要素になると考えられる。3.2防災スポーツイベント3.2.1防災スポーツ大会(図1のB)東日本大震災時には、総合型地域スポーツクラブが母体となり震災後の地域住民支援がなされていた13),14)。総合型地域スポーツクラブは、地域住民の自主的・主体的な運営を基本として、多種目・多世代・多志向を特徴として地域の施設でスポーツを実施し、その効果の1つとして地域住民間の交流の活性化を図る組織である21)。つまり、スポーツを通じた親交的コミュニティの形成を担うことが期待される組織である。大学を拠点とした総合型地域スポーツクラブにて学生が指導者となり、スポーツプログラムを近隣住民に提供するという事例もある22)。学生は親交的コミュニティの目標である第一次集団の形成に関わることができる。しかし、大学を拠点とする総合型地域スポーツクラブには、財源、クラブ運営に関わる教員の負担、授業や部活動との施設利用の調整などの諸問題をはらんでおり、解決すべき課題が多くある22)。一方、1日で終了するスポーツ大会であれば、無理なく毎年継続することができる。星(2007)は、嘉悦大学が主催する「嘉悦杯家庭婦人バレーボール大会」について報告している23)。この大会は年1回行われ、異なる市・区に住む家庭婦人を対象とした大会である。星は、大会の良かった点として「住民同士および住民と学生との間の交流・親睦が出来る」ことを挙げている。スポーツの試合は祝祭と同一直線上の事象であり、「そこに集う人々を日常生活から解放し、日常生活からの脱却と一時的な変身によって、感性の世界を復活させ、地域社会の人々の間に社会的な共感を生み出す共同行為」である9)。つまり、非日常的なスポーツ大会は交流・親睦の機会を提供するだけではなく、感性レベルの共感をもたらす可能性がある。このようにスポーツ大会を通じて交流・親睦・共感が育まれるのであれば、災害時の助け合いの基礎にもなると考えらえる。防災を意識した種目を取り入れたスポーツ大会や運動会が様々な自治体で実施されている24),25),26)。この中では、バケツリレーや毛布担架によるタイムトライアルなどが行われている。瀧本(2014)は、防災活動だけを単独で実施すると長続きしないため、知らず知らずに楽しく防災活動に参加できるように工夫することの必要性を述べている4)。防災を意識した種目をスポーツ大会に取り入れることは、まさにこの工夫の一例である。また、自治的コミュニティの形成の観点で言えば、救急現場に居合わせた人(バイスタンダー)の心―101―大学における地域活性化人材の育成方法

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