中部大学教育研究16
114/128

などは、祝祭性を持つ活動領域と考えられている9)。一方、スポーツを通じて人々のつながりができる反面、当該集団にのみ受容されるような行為、価値観、固有の規範を持ち、それらが他の集団に対する差別や排他を招く危険性も指摘されている3)。したがって、スポーツによるコミュニティ形成においては、スポーツ現場で生じる問題を見逃さずに、その可能性と限界を慎重に解き明かすことが必要とされる3)。自治的コミュニティに関しては、行政機関や商業機関を主とする専門的機関が日常生活の諸問題(下水やごみ処理など)の多くを解決しているが、このような専門的機関の不得意な分野の1つが災害のような非常事態への対応であり、自治的コミュニティの形成には、自主防災組織と言った素人の住民の相互扶助活動が不可欠であると考えられている10)。防災組織の活発な活動は住みよいコミュニティに必要な要素とされている11)。つまり、瀧本(2014)が指摘するように、防災を皮切りにコミュニティを形成して地域活性化につなげることができると考えられる4)。しかし、その地域の実情を知らない専門家が一般論や地域性を無視した防災思想を押し付けたり、住民の主体性を無視した高圧的態度で一方的な防災指導をしたり、危機感のみを与えたりすることなどはコミュニティに亀裂を入れる可能性があるため4)、自然に無理なく防災活動を展開するための工夫が必要である。なお、親交的コミュニティの目標である第一次集団が形成されるためには、スポーツや趣味と言った活動より住民の日常生活の維持に不可欠な課題の解決に費やす活動に、より主要な親交的コミュニティの源泉を見出せることから、自治的コミュニティが親交的コミュニティ成立の基盤であるという考え方がある10)。一方、親交的コミュニティが基礎となって自治的コミュニティに発展するケースもありうると考えられている9)。例えば、東日本大震災の時に北茨城市大津町は津波による被害者が少なく、避難所運営に大変意欲的な地域であったが、この背景には運動会や祭りなどによって顔なじみになることが基礎にあったことが指摘されている12)。さらに、宮城県や福島県において、総合型地域スポーツクラブが母体となり、避難所運営、炊き出し、ボランティアなどがなされた13),14)。これらの事例は、親交的コミュニティが基礎となり自治的コミュニティに発展しうることを示すものと考えられる。ともあれ、1つの地域社会は親交的コミュニティと自治的コミュニティの2つの性格を併せ持ち、両者は複雑に交差し、お互いに影響しあっていると考えられている9),10)。スポーツと防災はそれぞれ親交的コミュニティと自治的コミュニティの形成に大きな影響を与えることになる。この2つのコミュニティの関わりを表す概念図を図1に示した。図1「スポーツ」「防災」によるコミュニティへの影響とコミュニティに影響を与える活動の例矢印()は、「スポーツ」が親交的コミュニティの形成に、「防災」が自治的コミュニティの形成に、そして「スポーツと防災の融合」が両コミュニティの形成に影響を及ぼすことを示す。グラデーション部分は、親交的コミュニティと自治的コミュニティが交差する領域である。点線の矢印()は、一方のコミュニティが他方のコミュニティに影響を与えることを示す。四角(□)内は、スポーツと防災を融合した活動の具体例である。図1の両コミュニティの交差する領域に着目すると、スポーツと防災を融合した活動は両方のコミュニティを形成する活動となる。どちらか一方のコミュニティ形成に偏重している人々でも参加がしやすく、もう一方のコミュニティへの意識・関心を持つ機会となる。実際の地域社会が2つのコミュニティの特徴を併せ持っていることを考慮すると、スポーツと防災を融合した活動は、より地域社会の本質をとらえたコミュニティ形成の方法になりうると考えられる。本論は、大学における地域活性化人材の育成方法に焦点を当てているため、次節では、大学生が主体となり運営するスポーツと防災を融合した活動の具体例を提案する。―100―尾方寿好・西垣景太・藤丸郁代A.B.C.

元のページ  ../index.html#114

このブックを見る