中部大学教育研究16
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1はじめにグローバルな工業化の進展による産業空洞化と、都市化に伴うコミュニティの破壊が、地域産業の停滞と、地域に住む人々のつながりの希薄化をもたらし、地域活性化をきわめて現代的な課題としている1)。地域活性化には、1人あたりの所得水準を増やすことを目的とする経済面と、人々が安心・元気になることを目的とする社会面の2つの軸がある1)。地域活性化の具体的な切り口として「スポーツ」2),3)、「防災」4)、「観光」「地域資源の利用」「農業」「地域情報化」「医療」「金融」「交通」1)などがあるが、超高齢社会の日本において、多くの高齢者が防災面を重視していること5)や、健康や病気へ不安を抱えていること6)から、現代社会では“防災”、そして健康の維持増進を図ることができる“スポーツ”は相対的に高い重要性を持つと考えられる。ところで、地域活性化には、それを担う人材の育成が必要である。この人材育成のプロ機関である“大学”が、地域活性化に貢献できる人材を育成することが求められている1)。尾方(2013)は、全国の大学の中にはスポーツ指導者と救急救命士の育成がセットになった学科が複数あり、両者は体力やコミュニケーション能力などの共通の素養が求められることや、職務上の接点がありうることなどから、両者に通じる工夫された教育を行うことで、より高い教育的効果が得られることを主張している7)。なお、救急救命士の仕事は、消防の救急隊員にほぼ限定されていることから消防官という枠組みでとらえると、その職務は「消火」「人命救助」「救急技術の普及」「防災意識の啓発」などを含む。すなわち、スポーツ指導者と救急救命士の育成がセットになった学科は、スポーツ・防災という2つの異なる切り口を持って地域活性化にアプローチできる人材を育成する下地を整えた学科であると言える。スポーツと防災は、それぞれが別個に地域活性化との関わりを議論されているが2),3),4)、橋本(2015)はコミュニティ形成の観点から、地域の人々を繋ぐスポーツと防災の意識を融和させることが重要であると主張している8)。しかしながら、スポーツと防災の融合と地域活性化の関係性についての議論は僅少である。また、大学教育の中でスポーツと防災を融合した活動を通じて、地域活性化に資する人材を育成するための具体的な方策は検討されていない。本論では、人々が安心・元気になることを目的とする地域活性化の社会面に焦点を当て、スポーツと防災の融合がコミュニティ形成に与える影響を議論する。コミュニティは地域と共同性を特徴とした地域空間であり9)、人々が安心・元気に暮らすための基礎と言える。この議論を踏まえて、大学生が主体となり運営するスポーツと防災を融合した活動の例を提示し、これらの活動を通じて、大学生が地域活性化に資する人材として成長していく可能性を議論する。最後に、スポーツと防災を融合した活動の超高齢社会における意義を述べる。2コミュニティ形成におけるスポーツ・防災の役割と両者の融合地域活性化の鍵はコミュニティの再生である1)。しかし、都市化という社会変動により、1.近隣の人々との相互認知度の低下、2.自らの生活目的を達成するために自分と他者との関係が功用を重視した関係への陥落、3.都市居住者の高い移動特性から生じる人々の近隣へのコミットメントの低下、4.結合の基礎としての人々のパーソナルな関係が貨幣関係にシフトすることでの非個性化・平準化傾向の促進が生じる10)ので、コミュニティの特徴である地域性や共同性が損なわれることになる。コミュニティを形成するためには、顔と顔を突き合わせた親密な結びつきと協同によって特徴づけられる集団(第一次集団)を形成することと、住民自らの手によって共通生活問題の共同処理を進めることの2つが柱となる10)。前者の立場を“親交的コミュニティ”、後者の立場を“自治的コミュニティ”と言う10)。親交的コミュニティは、スポーツやレクリエーションを中心とする地域活動の中で培われる友情関係によって形成される10)。祭礼も、日常生活から脱却した感性の世界を復活させ、地域社会の人々の間に社会的な共感を生み出す共同行為であり9)、親交的コミュニティの形成に有効であると考えられる。伝統的な宗教色のある祭礼を持たない地域では、新しい祝祭を創出してコミュニティ活動を行う例もある9)。スポーツの試合―99―中部大学教育研究№16(2016)99-104《提言》大学における地域活性化人材の育成方法-スポーツと防災を融合した活動の可能性-尾方寿好・西垣景太・藤丸郁代

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