中部大学教育研究16
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ている」と述べ、学生参画がすでに高等教育政策に欠かせない思想であることを指摘している。加えてレビは「その学生参画は次第にパートナーとしての学生の役割に関する考え方に結びつきつつある」とも述べ、新たな学生連携という概念を当該書で述べる意義について力説した(HEA,2014,p.4)。学生参画は「はじめに」に述べたアメリカとイギリスの二つの潮流が重なり合い、今やアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア等の英語圏の国々を中心に、あるいはその影響を受けた欧州全域において、教授学習のみならず、高等教育の質保証や質向上、さらには大学運営にまで拡張され、定義を拡大してきている。一方、国内においては、一方通行の講義形式の授業を排し、アクティブ・ラーニングを推進することが高等教育において重要視され始めたが、依然、学生参画はあくまでも教授学習過程の改善に限られ、学生に授業や学科のカリキュラムの評価を委員会の正式なメンバーとして担わせたり、新たな学習教材やモジュールの開発を委託したり、初年次教育の教育活動の調査研究を委嘱するといったより進んだ学生参画=学生連携については、ほとんどの大学において想定外であるに違いない。2.2高等教育の質保証、質向上における「学生参画」まず、学生連携を理解する前に、イギリスを中心に発展してきた学生参画の大きな枠組みを見てみよう。図1は、現在イギリスを中心に欧米圏で理解されている学生参画を表す単純な枠組みである。左円は日本でもお馴染みの「教授学習そして研究における学生参画」であり、国内において該当する学生参画は、たとえばアクティブ・ラーニングやインターンシップ、サービス・ラーニング、協働学習やプロジェクト型の授業となる。また、特に研究に該当する学生参画は、基本的に日本の大学の専門ゼミを想定することができる。一方、右円はイギリスで発展してきた「教授学習の実践と政策の向上」に関する学生参画である。高等教育の質保証や質向上、さらには大学運営に関する学生参画を含み、日本ではFDと呼ばれることも多い領域である。具体例としては、学生の声を聞くための授業アンケートやさまざまな学生調査の実施、ENQAで見られる質保証活動への学生自治会の参画などが挙げられよう。質保証活動への学生自治会の参画は国内においてはほとんど例を見ない事例であるが、授業アンケートや学生調査については、多くの大学で実施されている活動である。なお、両円の交わりに関しては、以下のような説明がある。ピア・アシステッド・ラーニング(peerassistedlearning:PAL)は、訓練を受けた学生(PALリーダー)が受講生の議論や共同学習のファシリテーションに携わる「教授学習と研究における学生参画」だが、同時に学生と教職員との連携を通して、その科目や学科の教授学習の向上に資することがありうる。その場合、この活動は「教授学習と研究における学生参画」と同時に「教授学習の実践と政策の向上」に関する学生参画とも言えるわけである。立命館大学のピア・サポート・プログラムの特徴として「支援される側の学生の成長」と「支援する側の学生の成長」に加えて「指導する側の教職員の成長と業務の改善」を挙げているが、この指摘は「業務の改善」に相当する部分だと言えよう(沖、2009年、132-133頁)。ただし、このようなケースは結果的にそのような成果が得られることもあるが、極めて稀であるとも述べられている。なお、図1で重要なことは、学生参画の範疇が右円にまで拡大していることを認識することである。これまで大学改革に絡み、学生を巻き込みながら国内で行われてきたさまざまな活動や実践が、実は学生参画という大きな枠組みの中で整理され、包括的に議論できるようになることは大変意義深い。たとえば、学生参画型FDについて、国内ではその位置付けや定義に関してさまざまな議論があるが4)、「教授学習の実践と政策の向上」に関する学生参画だと捉えるならば、ピア・サポート・プログラムや学生自治会の活動とともに世界の高等教育と同じ文脈で語れる可能性がある。2.3「学生連携」という新たな概念上掲の「パートナーシップを通じた参画-高等教育における教授学習のパートナーとしての学生-」では、さらに図1を発展させ、図2のような枠組みを提唱している。図1における「教授学習と研究における学生参画」が左端に書かれた「学習・教育・研究(learning,teachingandresearch)」で表わされ、さらにそれ―2―沖裕貴図1学生参画の単純な枠組み(HEA,2014,p.23)Student engagement in learning, teaching and researchEnhancement of learning and teaching practice and policy

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