中部大学教育研究15
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れでいいのかな」と疑問に思った。一行が大変興味を示したものに、災害避難用の防災頭巾と抱っこ紐のセットがあった。アメリカは地震が少ないので、こうした備えはないらしい。使い方を山田師長が実演すると、学生たちは盛り上がり、自分たちも体験していた。また、病院の建物は耐震構造なので地震時は外に逃げるより院内にいた方が安全だが、火災時は動ける母親は自分の児を抱いて逃げることになっているという説明もあり、皆、「なるほど」と頷いていた。拙い通訳も少し慣れてきて、それでもだめならジェスチャーで伝えていくうちに、山田師長との息も合ってきて、筆者も楽しく同行した。そして、「中部大学の学生は、海外にも誇れるような素晴らしい病院で実習させていただいているんだなあ」と改めて感謝した。さて、助産学生の二人はここでもすっかり山田師長のファンになり、「こんなに素晴らしい助産師でキャリアも十分あるのに、なぜ開業しないのか?」と大胆な質問をした。これには師長も大笑いだったが、「子どもを育てながら働き続けるには良い環境だったし、先輩や医師にもとても恵まれていたからかな」と回答された。筆者も女性が働き続けるうえで、ワークライフバランスは非常に重要であると感じている。それに、助産院での分娩は確かに素晴らしいが、現在の日本では全分娩の99%が病産院で行われており、数的に考えると病産院での分娩を改善する方が急務なのである。そういう意味で、春日井市民病院の取り組みはとても意義があると思っていることを補足説明すると、師長も学生らも深くうなずいてくださった。病棟を案内してもらっていたとき、タイミングよく助産師課程に進学希望である本学の4年生に会ったので、アナヤとアリーに紹介した。実習中なので挨拶程度の短い時間だったが、大学院で学ぶ助産学生がアメリカから見学に来られていることを知ると「わあ!」と驚き、これから授乳介助を行うのだと話してくれた。アナヤが「日本の学生はスマイルがあって感じが良いし、熱心ね」と褒めてくれた。彼女は教員としての社会人経験もあり、二児の母でもあるので、「ありがとう。でもあなたはもっと余裕でしょう?」と言うと、「とんでもない!実習中はいつも緊張している。幼い子どもたちの世話もあるし、なかなかうまくいかなくて、ストレスもたくさんよ」とのことで、意外だった。そして、「ナオミは何がいちばん優先?」と耳の痛い質問が来た。育児と仕事、学業の両立はアメリカの女性でも大変らしい。筆者は「どちらも大切だけど、第一優先は子ども。母親は世界に一人だし、子どもが元気でいてくれるから働けるから」と答えた。筆者も前任校で助産師課程を担当していた際に、ママさん学生がいた。彼女はやはりアナヤと同様の悩みを抱えていたが、無事に修了して助産師免許を取得し、今は立派に助産師として働いている。そのことをアナヤに話し、「それにあなたはアリソンが選んだ優秀な学生なんだから大丈夫よ」と話すと、「そうよね。ありがとう」とほっとしたようだった。見学終了後に、院内助産の実現にも貢献された産婦人科部長の早川医師と見学を許可いただいた看護部にお礼を述べた。アリソンは一行を代表して、「大きな病院であっても、まるで助産院のように温かできめ細やかな助産ケアがあり、助産師も医師も協力していて、とても素晴らしい」と感想を述べていた。写真42階東病棟のナースステーション前にて4.3中部大学へ春日井市民病院の見学後は、中部大学へ移動した。一行は、近代的な建物と対照的に日本庭園や茶室まであることに驚いていた。本学に助産師課程はないため、51号館の保健看護学科の母性・小児看護学実習室を中心に案内した。その広さにも設置備品にも感心され、「看護師課程でも、こんなに恵まれた環境で学習できるのね」と感嘆していた。新しく購入したばかりの新生児のバイタルサイン測定用のシミュレーターを体験してもらうと、リアルな泣き声まで出たので、「うわっ!」と一歩下がるほど驚いていた。筆者が「びっくりするでしょう。うちの学生もびっくりして、フリーズするのよ」と言うと、大笑いだった。見学後、ゼミ室でコーヒーブレイクをしながら、参考までに母性看護学や助産学に関する日本のテキストを見てもらった。一部の専門用語は英語で示されており、最近のテキストはイラストや写真が豊富なので、日本語が理解できなくても何が書いてあるのかくらいは分かったようだ。予想以上に興味を示され、自国のテキストと比較しながら話が盛り上がっていた。皆で愛知での訪問先で見聞した内容を振り返りながら、「とても充実していてあっという間だった」と聞いて、アレンジした側としては安堵した。また、本学―78―横手直美

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