中部大学教育研究15
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1社会的背景昨今の大学の社会における重要な役割の一つに「地域貢献」があげられる。この背景において平成25年度から文部科学省が、「大学が地方公共団体や企業等と協働して、学生にとって魅力ある就職先の創出をするとともに、その地域が求める人材を養成するために必要な教育カリキュラムの改革を断行する大学の取組を支援することで、地方創生の中心となる『ひと』の地方への集積を目的」とした『地(知)の拠点大学による地方創生推進事業』を展開しはじめた1)。これは大学が有する機能を各地域の問題解決のために活用することを意味する。また、平成21年度の中央教育審議会による大学と高校を通じた全体教育の必要性に関する答申を機に全国的に『高大連携』が広まった2,3)。中部大学も高大連携について重視し、数年来その活動が盛んに行われてきた。高大連携は、高校と大学が連携して行う教育活動であり、高校生による大学の公開授業への参加や大学教員等による高校での授業などがある。一方、理学療法学科は、理学療法士の養成を第一義としており、そのことを通して社会に貢献している。現在の理学療法士に求められる役割は従来のリハビリテーションのみならず、健康増進、疾病の予防、スポーツ医学、介護などの幅広い分野におよんでいる。中部大学生命健康科学部理学療法学科では、基本となるリハビリテーションのみならず、健康増進、疾病予防、障害者支援、ロコモティブシンドロームへの対応なども含めた高齢者の介護予防、そしてスポーツ外傷・障害予防などに対応できる理学療法士の育成を目指している。特に今回のテーマともなっているスポーツ外傷・障害への対応については、公益財団法人日本理学療法士協会においてもスポーツ理学療法学会を発足するなど、理学療法士がスポーツに関与する気運が以前にも増して高まっている。このようなことから大学は理学療法士の養成のみならず、その知識や技術を直接的に地域に還元するなどの新たな地域貢献の方法が求められている。今回のキーワードとなる「地域貢献」「高大連携」「スポーツ理学療法」を絡めて、「春日井市における健康増進、障害予防」に役立つプロジェクトを計画することとなった。そこで、春日井市の高校運動部におけるスポーツ障害の予防をプロジェクトの主要な目標とした。2春日井市の高校運動部に関する問題点春日井市は31万人都市であるが、人口比率的に高校数が非常に多く、公立私立合わせて8校もある。また各高校とも運動部の活動が盛んに行われている。我々が中部大学においてスポーツ障害予防に関する活動を行う中で感じられる現状の問題点として、高校運動部員や部活動の顧問がスポーツ障害の概要、対処法、医療機関受診の必要性など、スポーツ医療に関する情報不足によりスポーツ復帰に難渋する事例が少なくないことがあげられる。日常的に運動部顧問から相談を受ける機会が多く、この問題への対策が必要であると実感してきた。春日井市は施策順位の1位に「健康の維持・増進を促す」、2位に「地域の医療体制を整える」を掲げており、健康や医療に関する行政の意識は高い4)。しかし、春日井市内の医療施設に関する特徴として、スポーツ選手のためのリハビリテーションなど医師の診察および理学療法士の評価に基づいて個々に応じた理学療法を提供できる外来の整形外科は決して多くはなく、運動部員にとっては決して恵まれた状況ではない5)。3本研究の目的本研究では、春日井市における高校部活動におけるスポーツ障害予防を大目標として、その活動の基盤となる現状調査から開始することとした。春日井市内の運動部員を対象として、スポーツ医療に対する意識、考え方を調査し、今後のスポーツ障害の予防活動に活用することを目的とした。4対象春日井市内の某公立高校において開催したスポーツ外傷・障害予防の実技講習会に参加した運動部員27名を対象とした。内訳は男性12名、女性15名であった。また2年生10名1年生17名であった。―1―中部大学教育研究№15(2015)1-4「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC)」による地域貢献・高大連携を活用した春日井市内高校運動部でのスポーツ外傷・障害予防の試み宮下浩二・矢澤浩成

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