中部大学教育研究15
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1はじめにインターネットやゲームの普及、核家族化や少子化の進行による家庭や地域での教育力の低下や人間関係の希薄化などに伴い、若者の人間関係を構築する力やコミュニケーション能力の低下が危惧されるようになり久しい。2014年に発表された中央教育審議会答申によると、初等中等教育へのアクティブ・ラーニングの導入が大学入試改革と連動して本格的に検討されており、学生が主体性を持って多様な人々と協力して問題を発見し解を見出していく能動的学修の充実に向けた教育改善が求められている。本学でも「大学教育改革のまとめ-大学教育改革推進委員会の活動総括」の「新教育改革の概要」として「入学する学生の変化と多様化」の現状が記されている。入試形態の多様化、学力問題に加えて学生相談室利用者の急増が取り上げられ、教育支援体制の確立を急務としている。どのような学生を迎え入れ、どういった人格形成や能力育成をする場を提供し、いかなる学生を社会に送り出すのか、改めて大学教育のあり方が問われる時代を迎えている。学生相談室でも新入生の心理的特徴に応じた支援体制の模索を続けてきた(桐山・小塩・願興寺・佐藤,2012;佐藤,2015)。本稿では学内にある学生相談室の新入生支援としての正課授業と正課外活動における取り組み事例から今後の支援課題を考察する。2本学における新入生対象プログラム本学は建学以来「正課外の学びの重要性」を認識し、その理念に沿った活動を教職連携により実践してきた。新入生支援に関する諸活動では、学生支援課の若手職員が住み込みでアドバイザーを務める1年生対象の学生寮、上級生がアシスタントとして学科教員に同行する1泊2日の新入生恵那研修、実施50年を超える歴史を持ち、参加経験のある上級生がリーダーになり教職員も同行する3泊4日のフレッシュマンキャンプ、学科で勝敗を競うスポーツ大会をはじめとして、さまざまなプログラムが組まれている。上記の正課外活動には共通の特徴を見出すことができる。大都市近郊にありながら四季折々の変化が感じられ雉の鳴き声を聞くこともできるキャンパス内学生寮、夜空の星の美しさをはじめ身近な自然を満喫できる岐阜県恵那の研修センター、日本の屋根と言われる中部山岳国立公園の一角、奥飛騨温泉郷にある大学所有の山荘におけるフレッシュマンキャンプ、敷地面積約4000平方メートルの全天候型グラウンドで力の限りを尽くすスポーツ大会。広大な自然に立地する大学所有の諸施設を拠点として、時に寝食をともにしながらスポーツやレクリエーションを行い、教職員や上級生が同行するという構造の中で、新入生の身体感覚は刺激を受け自己との対峙を始める機会となっている。「スポーツ大会に参加して普段出さない大きな声で応援した。勝敗に一喜一憂して人と繋がる楽しさや自分の感情の動きに気づいた。創造力が刺激された気がした」と語った学生がいた。正課外活動を機に自己理解が深まり自らの成長を感じることができたケースである。本学の正課外活動の効果に着目した研究にはフレッシュマンキャンプでのリーダー経験を取り上げた調査があり、伝統的に行われてきた大学行事の教育的効果が示されている(伊藤・西垣・佐藤・栗濱・山田,2011)。3学生相談室による新入生支援多様な正課外活動を有する大学風土の中、学生相談室では従来からの個別面談を基軸に、新入生を対象に3層にわたる支援を行ってきた(図1)。第1層は初年次教育科目の正課授業、第2層は心理教育的グループ、そして第3層は個人面接である。また、新入生を直接教育指導する教職員を対象に、コンサルテーションに加えて、新入生の心理的特徴の理解と対応の実際についての研修や、発達障害やその傾向のある学生を理解し支援するための視聴覚資料(DVD)の制作を行ってきた(中部大学学生相談室,2013)。学生の親からの相談受付件数も近年増加している。入学予定者宛に送付される資料や在学生の親宛に発行されている広報誌『信頼』にも学生相談室の利用案内が記されており周知に貢献している。学生相談で語られる相談内容は、数年後に迎え入れる学生像の理解やその対応に繋がるテーマを含んでいることが少なくない。相談現場で得られた知見を様々なかたちで大学コミュニティに還元させていくための―43―中部大学教育研究№15(2015)43-48学生相談室による新入生支援-正課授業と正課外活動による実践事例-佐藤枝里

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