中部大学教育研究15
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1はじめに文章が書けない、読めないといった学生の日本語力不足の問題は、授業やゼミでの学生指導を通して実感されるところである。学生の日本語力にかなり個人差があることも感じられるが、どの程度の開きがあるのか、実態は把握しにくい。こうした状況を背景に日本語日本文化学科では、1、3、4年生を対象に、以下の2つの取り組みをしている。・IRT日本語力診断テスト1)(以下「IRT診断テスト」)の実施(2007年度より。ただし2007年度は1年生のみ実施)・600字~800字の論述文課題の実施(2009年度より)本稿では、この取り組みから得られた学生の日本語力の伸びに見られる傾向について述べ、日本語力指導の一助としたい。2背景2.1IRT日本語力診断テスト日本語日本文化学科が実施しているIRT診断テストは、いわゆるプレースメントテストの一つであり、現在はNHKエデュケーショナルとNTSにより共同で実施されている。入学者の基礎学力の低下および学力幅の増大を背景に、多くの大学で日本語力に関してもプレースメントテストの実施が必要とされている。2011年におこなわれた日本リメディアル教育学会の調査2)によると、回答のあった、国立55大学、公立53大学、私立294大学、短大142大学のうち、国立大学の62%、私立大学の80%、短大の35.9%の大学が、初年次教育のクラス分けや基礎学力把握の目的でプレースメントテストを実施しているという。IRT診断テストはそうしたプレースメントテストの一つとして、2003年に全国20万人の中高生を対象に行った基礎学力調査(標準化テスト)の結果をもとに、IRT理論に沿って開発されたものである。このテストは平均点やスコア分布の影響は受けないように設計されているので、毎年受ければ、経年的な推移を見ることができることになる。テストは語彙に関する4択問題100題から成っており、マークシートで解答する。結果は、200~800点の「得点」と、点数レンジにより「中1レベル以下」から「高3レベル以上」までの6段階の学年レベルで表示される。「中学生レベル」と判定されることは、例えば440点のように素点で表示されるよりも学生にはインパクトが強いようである。テストの実施主体より公表されている「受験結果総覧総評」(2014年度)には次のような事例が日本語力不足の問題として挙げられている。<問題点として指摘される具体例>・日本語力が中学生レベルである学生は、大学の講義が理解できないことがある。学ぶべき内容ではなく、教員の発する言葉や資料にある語彙の意味を理解する力に課題があるのだ。その結果、単位を落とす学生が多い。・日本語力が中学生レベルである学生は、英語の学習においても課題を抱えることがある。英語力を身につけることに関して具体的な目標を持った学生は、数週間の短期集中型のTOEIC学習により、TOEICのスコアが平均100数点上昇した。ただし、日本語力が中学生レベルの学生においては、スコアがほとんど上がらないという事実があった。このように日本語力が低いと判定された学生は大学生活を送るのに支障があることが予想される。このような学生を早期のうちに発見し、学科内でケアしていくことを主眼として、日本語日本文化学科でも2007年度からテストを導入することとした。1年生は入学時の日本語力を把握するために、スタートアップセミナーにおいてテストを実施している。3、4年生はゼミにおいてテストを実施しているが、テストによって1年次と比較して「伸び」が見られるかどうかを確認できる。教員にとってはゼミでの指導に役立てることができ、学生にとっては学習の動機付けにつながると考えられる。2.2論述文課題の実施日本語日本文化学科では、2009年からIRT診断テストに加え、論述文も書かせることにした。IRT診断テストは語彙力を見ることによって簡便に学生の日本語力を把握することができるが、大学生活において直面―35―中部大学教育研究№15(2015)35-41学生の日本語力の「伸び」に見られる傾向-日本語日本文化学科の取り組みから-山本裕子

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