中部大学教育研究15
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現在の行動に影響するという時間的展望の広がりを測定するために、時間的展望尺度(白井,1991)を使用した。この尺度は「私の将来は漠然としていてつかみどころがない(逆転項目)」「毎日がなんとなく過ぎていく(逆転項目)」「私の将来には希望がもてる」などの19項目で構成されており、自分自身にどれくらい当てはまるかについて「当てはまらない(1点)」から「当てはまる(5点)」までの5段階で回答が求められた。この尺度によって測定された得点が高得点であるほど、過去や未来へと広い時間的な展望を持つことを意味する。時間的展望の内容を詳しく検討するため、白井(1994)の時間的展望体験尺度も加えて使用した。本尺度は、過去受容(「私は、自分の過去を受け入れることができる」)・現在の充実感(「今の生活に満足している」)・希望(「自分の将来は自分できりひらく自信がある」)・目標指向性(「私には将来の目標がある」)の4つの側面からなる18項目で構成されており、過去、現在、未来という時間軸それぞれにおける展望の高さを測ることができる。自分自身にどれくらい当てはまるかについて「当てはまらない(1点)」から「当てはまる(5点)」までの5段階で回答が求められた。セルフ・コントロール本尺度は、小塩他(2011)、小塩他(2012)、佐藤他(2013)、佐藤他(2014)で使用したものと同じであった。直接的な外的強制力がない場面で、自発的に自己の行動を統制することをセルフ・コントロールと言う。この中には、ストレス場面において発生する情動的・認知的反応の制御を意味する調整型(Redressive)セルフ・コントロールと、習慣的な行動を新しくしてより望ましい行動へと変容していく改良型(Reformative)セルフ・コントロールがある。杉若(1995)は、この2つの下位概念に、セルフ・コントロールとは異なる対処方略を意味する外的要因(External)による行動のコントロールを加えた3つの下位尺度で構成される、日常生活で観察されるセルフ・コントロール行動の個人差を評価する尺度(RRS)を作成した。今回はこのRRSのうち、先行研究(杉若,1995)の因子分析結果において、各因子に高い因子負荷量を示した5項目ずつ、計15項目を抜き出して使用した。項目例は、「仕事に神経を集中できないときには、小さな目標を立てて少しずつ処理していく」(改良型)、「自分を悩ませる不愉快な思いに打ち勝てないのは、いつものことである」(外的)、「不愉快な思いに悩まされるときには、何か楽しいことを考えるようにしている」(調整型)というものであり、今の自分自身の考え方にどの程度当てはまるかについて「全く当てはまらない(1点)」から「非常によく当てはまる(6点)」までの6段階で回答を求めた。キャリア・アダプタビリティキャリア・アダプタビリティ(Savickas,1997,2011)とは、「変化できる資質、大きな困難なくして新しいあるいは変化した環境に適応できる資質」であり、関心、コントロール、好奇心、自信の4次元から構成されている。キャリア・アダプタビリティが身についているほど自律的なキャリア選択が促されることが指摘されてきた(Creed,Fallon,&Hood,2009)。そこで、2014年度の効果については新たに本尺度を導入し、「自己開拓」の受講によりキャリア・アダプタビリティが高まり、自律的なキャリア選択が可能になるのかを検討することとした。本尺度は杉本(2014)がSavickas&Porfeli(2012)やNota,Ginevra,&Soresi(2012)を参考に作成した、キャリア・アダプタビリティ尺度(29項目,5件法)を使用した。本尺度は関心(「今の選択が自分の将来を形成すると認識すること」)、コントロール(「前向きでいること」)、好奇心(「自分の持っている疑問について深く調べること」)、そして自信(「自分自身に期待すること」)について、「人は異なる強みを用いてキャリア(人生)を構築していきます。全てが得意だという人は誰もいません。強みとして重要視していることは人によって異なります。以下の項目について、あなたはどれほど発達させ、できるようになっていますか。」と教示し、「全くできない(1点)」から「非常によくできる(5点)」までの5段階で回答が求められた。2.2調査手続き・調査対象者「自己開拓」の受講者に対し、初回の授業で事前テスト、最終回の授業で事後テストを実施した。統制群については、「自己開拓」を受講していない一般教養科目の受講生に対し、「自己開拓」と同時期に事前テストと事後テストが実施された。なお、本調査の実施は中部大学倫理審査委員会にて承認された(承認番号260040)。調査参加者の内訳は、受講群96名、統制群99名であった。3結果と考察3.1授業前後の受講群と統制群の変化3.1.1自尊感情の変化群(受講者群と統制群)×調査時期(授業前・後)の2要因混合計画の分散分析をおこなったところ、交互作用と主効果ともに有意ではなかった(交互作用F(1,196)=0.50,群の主効果F(1,196)=0.49,調査時期の主効果F(1,196)=2.63,いずれもn.s.)。これまでの知見では「自己開拓」を受講することによって自尊感情が高まることが示されてきたが、本年度はそのような効果は見られなかった。―20―佐藤友美・杉本英晴

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