中部大学教育研究15
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1はじめに中部大学では2010年度より、全学の学生を対象としたキャリア教育科目のひとつとして、「自己開拓」を開講してきた。この授業の構成および内容についてはハラデレック・林・間宮・小塩(2011)に詳しく述べられているが、基本的に各週の授業は2回連続で8週間、計16回を、参加型ワークショップ形式で進められる授業形態となっている。この授業のねらいは、毎回のグループを中心とした作業を通じて、学生間の相互作用を促し、意識や考え方の変化を目指すものである。これまでに、「自己開拓」の教育効果については組織的な調査が行われており、4度にわたる報告を行ってきた(小塩・ハラデレック・林・間宮,2011;小塩・ハラデレック・林・間宮・後藤,2012;佐藤・小塩・ハラデレック・林・間宮,2013;佐藤・小塩・ハラデレック・林・間宮,2014)。たとえば、小塩他(2011)では、自尊感情、進路選択に対する自己効力、セルフ・コントロール、ビッグファイブ・パーソナリティの各指標に注目し、「自己開拓」受講者(受講者群)と「自己開拓」を受講していない学生(統制群)とで比較をおこなった。統制群と比較した場合、「自己開拓」の授業を受講することによって、受講生の自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、より広い時間的展望が得られること、生活習慣を変化させるような改良型セルフ・コントロールが向上すること、勤勉性のパーソナリティが上昇傾向にあることが示された。さらに、毎回の授業時の意識調査からも、受講生が徐々に自分自身に対する自信をもつように変化していることが示唆された。また小塩他(2012)、佐藤他(2013)、佐藤他(2014)によって、小塩他(2011)で見出されたのと同様の授業の効果が、4年にわたって一貫して見出されたことが報告されている。2014年度は、「自己開拓」が開講されてから5年目の年にあたる。履修学生の増加により、これまでの2回連続で8週間、計16回の授業形態に加えて、週1回の16週間、計16回の授業時間形式も導入された。また、従来の教授法では1クラス40名での授業が限界であったが、より多くの学生が受講できるように教授法を改定し、1クラス60名で実施できる方法を実施した。改定した教授法は、週1回計16回の授業において用いられた。本研究は、「自己開拓」の授業開始から5年目にあたる2014年度においても、これまでと同様の教育効果が見出されるのか、また新たな授業構成においても、これまでと同様の教育効果が見出されるのかを検討する。そこで、調査内容および調査実施デザインも同様な手法を用いた。2方法2.1プレ・ポストテストに使用した尺度以下の尺度を、「自己開拓」授業前後、および別の教養科目授業前後に実施した。自尊感情本尺度は、小塩他(2011)、小塩他(2012)、佐藤他(2013)、佐藤他(2014)で使用したものと同じであった。自尊感情(桜井,2000)は、自分自身に対する肯定的な感覚を意味する。高得点であるほど、自分を肯定的に捉え、自信があり、自分に満足している傾向を意味する。この尺度は「私は、自分に満足している」「私はたいていの人がやれる程度には物事ができる」などの10項目で構成されており、それぞれの質問項目に対して、現在の自分に最もよく当てはまる選択肢を「いいえ(1点)」から「はい(4点)」までの4段階で回答させた。進路選択に対する自己効力本尺度は、小塩他(2011)、小塩他(2012)、佐藤他(2013)、佐藤他(2014)で使用したものと同じであった。進路選択に対して認知された効力予期すなわち自己効力を測定するために、浦上(1995)によって構成された進路選択に対する自己効力尺度を使用した。この尺度は「自分の能力を正確に評価すること」「自分が従事したい職業(職種)の仕事内容を探すこと」「一度進路を決定したならば“正しかったのだろうか”と悩まないこと」などの30項目で構成されており、それぞれの項目についてどれくらい自信があるかを「全く自信がない(1点)」から「非常に自信がある(4点)」までの4段階で測定した。この尺度によって測定された高得点であるほど、進路選択がうまくいくと認識し、進路選択行動を活発に行う傾向にあることを意味する。時間的展望本尺度は、小塩他(2011)、小塩他(2012)、佐藤他(2013)、佐藤他(2014)で使用したものと同じであった。より遠くの将来や過去の事象が―19―中部大学教育研究№15(2015)19-28キャリア教育科目「自己開拓」の効果-2014年度の授業について-佐藤友美・杉本英晴

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