中部大学教育研究15
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では、過去の先輩の教案等を示し、良い点や改善すべき点等を出し合い検討を行っている。また、お互いの見学表を検討し、分析の足りない部分を指摘し合い、知識の共有を図っている。教授方法では、過去の先輩の授業記録を見ることで、教壇実習での注意点や、参考になるポイントを話し合っている。教材分析では、教壇実習で教える文法項目を研究させ、担当する文法項目が日本語学習のどの段階に位置するかを理解させ、どの点に注意して教えるべきかを考えさせている。また、この点を考慮した上で提示する例文を作成させている。クラス分析では、見学時の留学生の発話及びプレイスメントテストの結果から、担当クラスの留学生の日本語力を把握させている。模擬授業では、教える役と留学生役に分れ、実際の留学生の反応や質問を想定し、それに対応できるよう準備もさせている。以上のように、実習講義では、これまでに日本語教育について学んできたことを、教える場面に展開させることを目的とし、知識から実践への移行を支援している。2.2.2見学センターでは、見学期間を2週間設け、実際の授業を見学させ、見学表に授業の流れを記録させ、分析させている。ここでは、学生という授業を受ける立場から、授業を動かす立場へと視点を移行するよう意識させている。この見学で、教える側の意図や配慮を理解し、自らの実習に反映するよう指導している。見学するクラスは、教壇実習を行うクラスの授業、同じクラスの違う科目、同じ科目の違うレベル等である。違う科目を見学することによって、留学生の日本語力を多角的に捉えさせ、違うレベルを見学することによって、日本語学習の過程を理解させている。実習生には見学後、見学表の記入をさせ、実習指導教員と見学した授業担当の教員に提出させている。見学表には授業の流れ、教員及び留学生の発話、板書等を記録させ、それぞれに、教師の視点から分析を加えるよう指導している。最初の見学では、「授業がわかりやすい、先生が普通に話しても通じていて安心した、留学生はよく理解していた」というようなコメントしか見られない。しかし、見学を重ねるにつれ、「わかりやすくするために板書が有効だ、先生は言葉を選んで繰り返しいろんな表現で説明している、留学生が質問に答えられなかった場合はすぐに違う質問をしていた、先生は留学生の発話を必ず繰り返している」という分析に変化していく。実習生はこの分析で学んだことを活かし教壇実習に向かう。2.2.3教案作成教材分析に基づき、実際の実習に用いる教案を作成させる。対象が留学生であるため、教壇に立ってから思いついたことを言っても通じない。よって、話すことをすべて教案に書かせ、指導の教員が添削する。センターでは直接法で授業をしているため、留学生の既習文法、既習語彙を把握することが重要となる。実習生は、授業見学及びプレイスメントテストの分析からそれらを把握し、教案・教材作成に活かしている。最初の段階では授業の流れのみが書かれ、具体性のない教案が提出されることが多い。そのような実習生の多くは、自分が日本語母語話者であるため「なんとかなるだろう」という根拠のない自信を持っている。しかし、教壇に立ち、練習を始めると、いったいどんな語彙とどんな文法が使えるかがわからず立ち往生してしまう。この経験を経て、台本のように教案を書き込むことの必要性に気づく。幾度となく教案の書き直しを経て、使える教案ができあがる。2.2.4教壇実習実習生が作成した教案・教材の添削を行うと同時に、教壇実習の練習をさせる。実際に教える場面における配慮や教授技術は教案には表れにくいものであるため、幾度となく練習を積み重ねる必要がある。同じクラスで教える実習生同士や、他の実習生の練習に参加することで、自らの教壇実習を客観的に評価する機会にもなっている。教壇実習は45分間を2回行わせる。実習生は、教案・教材・宿題を作成し、時間通りに授業を進めなければならない。最初は、教案を棒読みすることで精一杯であり、教案から目が離せないことが多い。しかし、相手に伝え理解させるために、どんな授業にすべきかを考えさせることにより、変化が表れる。声の大きさ、明瞭さ、話す速度、ポーズの取り方、指示の出し方、目線、指名の工夫、板書、立ち位置、時間配分等々に注意、配慮した授業へと改善される。最終的には、教案を見ずに教えることを目標としている。実際の教壇実習では、それぞれ成功も失敗もあるが、最も苦慮する点は、留学生の反応にいかに対処するかである。例えば、留学生の発話を正確に聞き取ることができず、間違った反応をしてしまう。また、質問にうまく答えられず、適切な説明ができないことも多い。対象者が留学生であるため「通じないことは何度言っても通じない」のである。これは、日本語教育の現場特有の経験であると言えよう。実習生はこれまで経験したことのない場面に立たさ―14―渡辺民江・上田美紀

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