中部大学教育研究15
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1はじめに日本語教員養成では、その集大成として教育実習が行われている。実習の目的は、教授技術の習得であり、実際に留学生に授業を行う貴重な経験である。また、対象者が外国人であり、異文化接触の場面であるため、様々な側面で実習生の成長に繋がるものでもある。この点に焦点をあて、その成長を捉える試みとして、内省的実践(岡崎・岡崎1997、池田他2002)、自己評価・他者評価(中川2005)、反省会(大和他2009)、体験理解の促進(上田他2008)等が報告されている。近年、グローバル人材を育成するという社会的要請の高まりと共に、日本語教育実習の有効性を示す研究も見られるようになっている。上田(2008)では、「多文化クラス」を刺激語としてPAC分析(内藤1997)をグループセッションで行った。その結果、「コミュニケーション」「日本を知ろう」「異文化理解」「実態」というキーワードが表出された。実習生が多国籍の留学生を前にコミュニケーションをとる際の工夫や配慮をしていたこと、日本に興味関心を抱いて来日している留学生から様々なことを学んだこと、異文化理解のために分析・比較・体験・尊重が重要であると認識したこと、実際の教え方及び留学生の日本語力・母語に合わせた配慮の重要性等を学んだこと、等々が検証された。日本語教育実習は、対象者が外国人留学生であり、文字通り異文化接触の場としての学びも大きい。そこで、特にこの部分を具体的に捉えることにより、日本語教育実習の持つ可能性をより多角的に示すことができ、日本語教育実習のプログラム改善に活かせると考えた。本稿では、実習生の学びに関して、異文化対処力の変化に焦点をあて、考察を試みた。2本学の日本語教育実習について2.1日本語教員養成講座本学には「日本語教員養成講座」が設置されている。文化庁の諮問を受けた日本語教員の養成に関する調査研究協力者会議から出された「日本語教育のための教員養成について」に基づき、カリキュラムが組まれている。カリキュラムは5区分で構成されている。必修科目は「社会・文化・地域」1科目・「言語と社会」1科目・「言語と心理」1科目・「言語と教育」6科目である。選択必修科目は「言語」3科目である。日本語教育実習は本講座の必修科目であり、他の科目の単位をすべて取得した学生のみが、4年次に受講できる。修了生には本学より「日本語教員養成講座修了証明書」が発行される。受講生は人文学部日本語日本文化学科の学生が大多数であるが、毎年、人文学部英語英米文化学科、国際関係学部国際関係学科・国際文化学科の学生も含まれている。実際にこの証明書を活かして日本語教員となり、国内外で活躍している修了生もいる。日本語教育センター(以下センター)は日本語教育実習生の受け入れをしており、実習生はセンターの授業を使って実習を行っている。春学期、秋学期とも最大10名ずつの受け入れが可能である。実習での目的は、1年次から3年次にかけて学んできた日本語教育の知識、理論的概念を実践することである。具体的目標は以下のとおりである。・学習者のニーズ・レベルに応じた日本語教育の多様性を知る。・留学生に対する理解を深める。・日本語・日本文化に関する知識を活かし「教材分析→教案作成→授業運営」という流れを体験する。・授業見学において授業運営の重要性を認識し、教壇実習に活かす。・他の実習生及び教員と協調して授業を創りあげる。2.2日本語教育実習の内容2.2.1実習講義センターでは受け入れた実習生に対して、1学期間にわたり講義を行っている。この授業では、実習の心構え、留学生について、見学表・教案作成の方法、教授方法、教材分析、クラス分析、模擬授業等を指導している。いわゆる座学の部分である。実習の心構えでは、これまでの大学生活で行ってきた自分のための課題や発表とは異なり、あくまで相手の日本語力向上を目指すべきであることを強調している。留学生の成績に関わる正規の授業時間を使って教壇実習をしているため、その意味と責任を理解させている。留学生についてでは、本学と提携校の関係、各留学生の属性やニーズ等について説明している。見学表・教案作成の方法―13―中部大学教育研究№15(2015)13-17異文化対処力からみた日本語教育実習における学び渡辺民江・上田美紀

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