中部大学教育研究15
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支援であるといえる。そのため、就職ガイダンスに参加している学生の中には、進路選択をできれば回避したいといった進路選択に対して消極的な学生も含まれている可能性がある(杉本他,2014)。そのため、就職ガイダンスへの参加率が高くても積極的な態度で臨んでいない結果、進路決定に影響を及ぼさなかったのかもしれない。今後、就職ガイダンスが就職決定に及ぼす影響を検討する際には、参加率のみならず参加態度に注目した検討も必要であると考えられる。4.4「自己開拓」が進路決定を促すメカニズムさらに、本研究の第二の目的である「自己開拓」が進路決定を促すメカニズムを検討すべく、「自己開拓」の受講者で卒業時点に進路を決定した学生の授業に対する意味づけを検討した。その結果、卒業時点で進路を決定した学生は、「自己開拓」の受講に対し、肯定的で具体的な意味づけを行う者が比較的多かった。中でも、自己理解や大学生活・将来への見通しなどの自己に関する教育効果、および、対人関係に関する教育効果は全般的に、「自己を知り、他者とのかかわり方を学び、大学生活のライフプランを立てる」という教育目標(ハラデレック他,2011)と合致する意味づけがなされており、「自己開拓」が教育目標を十分に達成する授業であることが確認された。そもそも、4年次の卒業間際になって1年次に受けた授業を思い出すことは非常に困難であることが予想され、授業内容を覚えていなかったり、思い出すことができたとしても具体性に欠けていたりするのは、当然だろう。確かに、そうした回答も少なからず確認された。しかし、3年前に受けた授業であるにもかかわらず、進路決定した学生の多くが「自己開拓」の受講に対して肯定的かつ具体的で「自己開拓」の教育目標に合致した意味づけを行っていたという本結果は、小塩他(2012)で確認された受講による短期的な教育効果が保持されたというだけにとどまらず、3年間を通してこうしたキャリア意識が学生自身に内在化された結果であるとも考えられる。このように、キャリア意識の側面からも「自己開拓」の長期的な教育効果が見出されたといえよう。また、「自己開拓」の受講に対する意味づけとして、他学科との交流やグループワーク、体験型講義といった教育方法を肯定的に捉える記述も多数得られた。これらのことを勘案すると、「自己開拓」はグループワークで他学科との交流をしながらの体験型授業形式という特徴を活かし、自己理解や視野の広がり、大学や将来への見通しなどの自己に関する発達のみならず、自分の意見を伝えることや相手の意見を聞くこと、コミュニケーション能力の向上、初対面の人との関係性の構築やよりよい関係性の形成スキルの獲得、さらには集団行動といった対人関係に関する発達の内在化を促す。こうしたキャリア意識の内在化は、学生の自律的な進路意思決定の態度を育み、進路未決定を抑制するという進路意思決定への長期的教育効果としてあらわれる。「自己開拓」が進路意思決定に影響を及ぼすプロセスには、こうしたメカニズムが寄与していると考えられる。5今後の課題本研究では、杉本他(2014)と同様に、「自己開拓」の受講が進路決定を促すことが示され、「自己開拓」の長期的な教育効果が認められた。ただし進路決定には、「自己開拓」以外の学修行動やその他の学校生活に関する行動、課外活動なども影響していると考えられる(杉本他,2014)。「自己開拓」が進路決定に及ぼす直接的な影響を明らかにするためにも、その他の行動も含め、進路決定への影響を包括的に検討していく必要があるだろう。また本研究では、「自己開拓」が長期的教育効果を生み出すメカニズムについても検討を加えた。「自己開拓」に対して、進路決定者の多くが肯定的かつ具体的な意味づけをしていることから、「自己開拓」の教育目標が内在化されていることによって、進路決定が促されるというメカニズムを示唆したといえる。しかし、進路決定者の中には否定的な意味づけをしている者も一定数見出された。否定的な意味づけの内容として特徴的なのは、「あまり勉強にならなかった」や「覚えていない」のように、具体的でないことが挙げられる。このような意味づけをしている学生も進路決定者の中に含まれていたことから、否定的で具体的でない意味づけは進路決定を抑制する直接的な要因にはならないことも示唆されたといえる。今後、「自己開拓」が進路決定を促すメカニズムをより詳細に明らかにするためにも、「自己開拓」受講者の中でも進路が決まらない者において、「自己開拓」がどのように意味づけられるのかを明らかにする必要がある。進路決定につながらなかった人の意味づけを検討することは、メカニズムの解明に加えて「自己開拓」の弱みを明らかにすることにつながり、今後の改善に示唆を与えるだろう。また、本研究における「自己開拓」に対する意味づけは、受講後3年後のものである。つまり、3年かけて内在化されてきたキャリア意識が、進路決定を促したとも考えられる。平成23年度より「自己開拓」の対象学年を広げた結果、受講者は1年生にとどまらず2年生、3年生へと拡大している。そのため、内在化にかける時間が2年、1年と短い学生も必然的にあらわ―11―キャリア教育科目「自己開拓」が進路決定を促すメカニズム

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