中部大学教育研究15
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効果に関して否定的な記述が若干得られ、また、覚えていないといった記述も得られた。4考察本研究の目的は、キャリア教育科目「自己開拓」の長期的教育効果について検証した上で、「自己開拓」が長期的教育効果を生み出すメカニズムについて検討することであった。具体的には、「自己開拓」の長期的教育効果として、就職ガイダンスへの参加状況や進路決定状況を指標として、「自己開拓」の受講の有無が及ぼす影響を検証した上で、「自己開拓」を受講して進路を決定した学生の「自己開拓」に対する意味づけを明らかにした。4.1「自己開拓」の長期的教育効果:就職ガイダンス参加に及ぼす影響「自己開拓」の長期的教育効果として、就職ガイダンス参加に及ぼす影響を検討したところ、受講者と非受講者に就職ガイダンスへの参加率の有意差はみられなかった。本結果は、受講者の方が非受講者よりも就職ガイダンスの参加率が高いという結果が得られた杉本他(2014)とは異なる結果となった。本研究の対象者が3年次に、就職率の向上を目的として就職ガイダンスへの参加をより促すような指導がなされた。受講者も非受講者も就職ガイダンスの参加率において天井効果がみられることから、指導の効果があらわれ、ほとんどの学生が就職ガイダンスに参加することとなったと考えられる。一方、杉本他(2014)において受講者と非受講者で就職ガイダンスへの参加率に差がみられたのは、前年度までは、就職ガイダンスへの参加が学生の自発性に委ねられていたためであると考えられる。「自己開拓」の受講者の方が非受講者よりも発達させたキャリア意識によって自律的な進路選択行動をとっていたと考えられることから、これまでは就職ガイダンスへの参加率が長期的教育効果の一指標となりえていた。しかし、就職ガイダンスへの参加率において天井効果がみられる本年度の結果を勘案すると、「自己開拓」の受講による長期的教育効果を検討する指標として就職ガイダンスへの参加率を用いるのは妥当でないといえるだろう。4.2「自己開拓」の長期的教育効果:進路決定に及ぼす影響次に、「自己開拓」の長期的教育効果として、進路決定に及ぼす影響について検討したところ、受講者は4年次の12月時点で就職活動中、すなわち、進路未決定の比率が低い傾向にあり、卒業時点で進路未決定の比率が有意に低かった。一方、非受講者は4年次の12月時点で進路未決定の比率が高い傾向にあり、卒業時点で進路未決定の比率が有意に高いことが示された。「自己開拓」は、順調な就職活動や安定した社会人生活を目標とするキャリア教育ではなく、キャリアを人生と捉え、人生の中で生きる力を自ら育てることを目標としたキャリア教育である(ハラデレック他,2011)。「自己開拓」を受講することによって卒業時点での進路未決定状態を抑制する可能性が示された本結果によって、キャリア教育科目「自己開拓」を受講することの大きな意義が示されたといえるだろう。ただし本結果は、「自己開拓」の受講によって進路決定を促すという杉本他(2014)の結果とは異なる結果といえる。2015年3月の卒業時点は、2014年3月時点と比べて雇用が回復し、全体的に就職率が高まった。そのため、就職先を決定できた学生が、「自己開拓」の受講の有無に関わらず高くなり、進路決定という側面から見ると有意な結果が得られなかったと考えられる。一方で、就職活動中、すなわち、卒業時点で進路未決定となった学生は「自己開拓」の受講者で比率が低く、非受講者で比率が高かったことから、進路決定の側面のみならず進路未決定の側面から検討することの重要性が示されたといえよう。ところで、就職者における就職先の資本金や従業員数といった企業規模には、杉本他(2014)と同様、「自己開拓」の受講の有無による有意な差はみられなかった。「自己開拓」の受講者が企業規模の大小に関わらず、就職先を決定していることから、「自己開拓」が大企業を目指す授業内容ではないことがうかがえる。実際、本学ではキャリアを人生と捉え、就職活動に関するガイダンスの提供やテクニックの習得にはとどまらない、学生が生きる力を自ら育てることを目的としたキャリア教育を推進してきた(ハラデレック他,2011)。杉本他(2014)と本研究の結果は、こうした教育目標の達成を示す1つの結果といえるだろう。4.3就職ガイダンスによる支援効果なお、就職ガイダンスへの参加率の高さが進路決定に及ぼす影響を検討したところ、就職ガイダンスへの参加率の高さが進路決定に有意な影響を及ぼしていないことが明らかとなり、杉本他(2014)と同様の結果が得られた。すなわち、就職ガイダンスに多く参加するだけでは、就職先を決定することは困難であることが示された。「自己開拓」の受講は学生の興味・関心による比較的選択制の高いキャリア教育であるが、「就職ガイダンス」は全学生に参加を求めるものであり、就職率向上のために就職ガイダンスへの参加率を高める指導が行われたことも相まって比較的選択性の低いキャリア―10―杉本英晴・佐藤友美・寺澤朝子

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