中部大学教育研究15
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1問題と目的近年の厳しい雇用情勢において、高等教育における学生の資質・能力に対する社会的な要請が高まる中、多様な学生に対する職業生活等への移行支援の必要性が指摘されている。こうした背景から、教育課程の内外を通じて、社会的・職業的自立に向けた指導等に取り組むこと、すなわち「大学におけるキャリアガイダンスの推進」が高等教育において喫緊の課題とされ、平成23年度に大学設置基準が改訂された。このように、大学において「キャリア教育」を充実させることは、非常に重要な課題といえる。中部大学では、平成22年度よりキャリア教育科目「自己開拓」を開設した(ハラデレック・林・間宮・小塩,2011)。この「自己開拓」では、キャリアに対する知識を身につけるような専門的知識伝達型の授業形式ではなく、学生が学部横断的に受講するグループワークを中心とした参加型の授業形式が採用されており、社会との関わり方や将来への意識といったキャリア意識を形成することが目標とされている(たとえば、自分の「これまで、今ここから」を考え表現し、他者とわかちあうことを、体験学習を通して展開した授業を行っている。ハラデレック他(2011)に詳細が記されているので、参照されたい。)。さらには、自律的な進路選択を行う力を身につけた結果、就職率の向上につながるといった長期的な教育効果が期待されている。これまで、「自己開拓」の授業を受けた直後にみられる短期的な教育効果については十分な検証がなされてきた(小塩・ハラデレック・林・間宮,2011;小塩・ハラデレック・林・間宮・後藤,2012;佐藤・小塩・ハラデレック・林・間宮,2013;佐藤・小塩・ハラデレック・林・間宮,2014)。しかし、授業以降のキャリア意識の発達や進路選択・決定などの長期的な教育効果についての検討はなされてきておらず、今後の課題とされていた(小塩他,2012)。そこで杉本・佐藤・寺澤(2014)では、平成22年度の本科目開設時に「自己開拓」を受講した学生に対して卒業時点で調査を行うことで、「自己開拓」の4年間の長期的教育効果を検証した。その結果、「自己開拓」の受講者は、3年次の就職ガイダンスへの参加率が高く、卒業時点で進路を決定していること、その一方で非受講者は、3年次の就職ガイダンスの参加率が低く、卒業時点で進路を決定していないことが示唆された。このように、平成22年度の「自己開拓」受講者には、十分な長期的教育効果が確認された。しかし、こうした効果がその後継続的に得られるかは明らかにされていない。そのため、「自己開拓」の長期的教育効果が平成22年度のコホート特有の効果であるか、他のコホートでもみられる信頼性の高い効果であるかを検証していく必要がある(杉本他,2014)。そこで、本研究では平成22年度の「自己開拓」一期生と同様、平成23年度に本授業を受講した「自己開拓」二期生においても、同様の長期的な教育効果がみられるか検討することを第一の目的とする。具体的には、進路選択・決定の観点から、「自己開拓」が就職活動や進路決定に及ぼす長期的影響について検討する。「自己開拓」に一貫した長期的教育効果が認められるのであれば、杉本他(2014)と同様、「自己開拓」の受講群は受講していない統制群に比べ、本学のキャリア支援課(キャリアセンター)が主催する3年次の就職活動ガイダンスにより積極的に参加し、卒業時点での進路決定の比率が高いことが予想される。さらに本研究では、「自己開拓」を受講することによって長期的教育効果が見出されるメカニズムについても検討する。「自己開拓」の受講が長期的教育効果を生み出すメカニズムとして、「自己開拓」の授業を通して形成されたキャリア意識が長期的な教育効果にまで影響を及ぼすというプロセスが考えられる。しかし、杉本他(2014)ではこの点について明らかにされておらず、検討の余地がある。そこで、本研究では「自己開拓」を受講して進路決定した学生の本授業に対する意味づけを明らかにすることで、学生が本授業の教育目標をキャリア意識として内在化しているのかを確認し、それが長期的教育効果を生み出すメカニズムとなりうるのかを検討することを第二の目的とする。「自己開拓」の教育目標として掲げられている、自己を知り、他者とのかかわり方を学び、大学生活のライフプランを立てることで、大学卒業後の自律的な進路選択を促されるのであれば(ハラデレック他,2011)、これらの教育目標が達成されキャリア意識が内在化されることにより、進路決定が導かれると考えられる。―5―中部大学教育研究№15(2015)5-12キャリア教育科目「自己開拓」が進路決定を促すメカニズム-授業に対する意味づけからの探索的検討-杉本英晴・佐藤友美・寺澤朝子

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