中部大学教育研究14
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1はじめに本稿は、韓国で近年増加し、日本でも注目されることの多い、英語教育施設「英語村」に関する調査結果を報告するものである。またここで得た知見をもとに、本学、特に国際関係学部などでの語学研修やフィールドワークなどでの利用可能性について検討することを目的としている。国際関係学部に所属する筆者らは、英語力はもちろんであるが、それと共にその他の言語の能力、そして国際知識を持って、アジア圏に進出している企業への「アジア関連就職」ができる人材育成に近年関心を持っている。中部圏では東アジアや東南アジアと関係を持つ企業が多く、これまでの本学部の卒業生を見ても、「部品メーカーのバンコク支社に勤務」「織機メーカーの中国営業担当」「アジア系エアラインの中部空港担当職員」など、アジアと関連する職場で活躍するものが多い。もちろんすべての卒業生がそのような進路を取るわけではないものの、一つのモデルとしては有効なのではないかと考える。そして筆者らは、その際にどのような英語の能力を持つべきであり、そのためにどのような内容の教育が必要なのかについて関心を持っている。そのような中で、近年フィリピンやマレーシア、シンガポールなど、アジア圏において英語研修を実施する大学が見られるようになってきている。また大学ばかりではなく、アジア諸国において英語語学研修を行う企業も増加している。この理由は、欧米に比べ、安い費用でマンツーマンの授業が受けられる上、重要性を増すアジアのビジネス風土に慣れる機会にもなるためであるという。例えばある大手銀行は、幹部クラスで海外に赴任する社員を対象として、語学研修のためマニラやセブ島の語学学校を活用している(日本経済新聞、2014.6.25付)。上述のような「アジア関連就職」をもし目指すのであれば、このような研修を大学時代に経験することは重要なのではないかと考えるに至った。上記の例は英語を公用語とするアジア国家で英語を学ぶ例であるが、韓国において、「英語村」が作られ、新たに外国人学生との共同作業を通じた英語教育が行われていることが報道されている。条件がそろえば英語を公用語としない地域でも、同様の英語研修が可能であるのではないかと考えるようになった。しかし、これまで韓国の英語村については、英語教育法や韓国社会の英語熱に関する内容の記事は見られるが、日本人学生の韓国の英語村での研修が、どのような成果をあげうるかについての指摘はさほど多くない。本稿では、このような視点を踏まえ、韓国の社会背景にもふれながら京畿英語村パジュキャンプを事例として述べてゆきたい。なお、本稿の内容は、2014年3月に実施した、韓国の京畿英語村パジュキャンプにおける現地視察に基づくものである。2韓国の英語教育熱と「英語村」韓国においては、1997年に小学3年生からの英語必修化が行われるなど、国策として英語教育が推進されてきた。その背景には、韓国社会における「英語教育熱」があるとされ、しばしばそれはやや過剰とも評される。韓国の若い世代は、職を得るためには英語ができることが最低条件と考えている。特に就業や昇進に関わるため、TOEICの点数をあげようと努力する傾向が強い。実際のところ、韓国の一流企業に勤務する若い社員のTOEICの点数は異常なほど高いとも聞く。そのため、子女を英語圏の大学に留学させることはもちろん、小学生以下の子供を英語が話される地域に送り、英語を身に着けさせようとする親も多い。その時に子供の世話をするために母親も海外に送ってしまい、父親だけが韓国で生活する例もある。そのような父親は渡り鳥のようにして1年に1~2回妻子に会いに行くことから、「キロギ・アッパ(雁お父さん=渡り鳥お父さん)」と呼ばれる。一方、かなりの投資をして、韓国では子供に英語を身につけさせようとし、また企業もTOEICの高い点数を要求するにもかかわらず、実際の業務ではさほどの英語は使わないのではないかとの指摘もある(TheWallStreetJournal、2014.7.9付)。このような韓国の教育政策や、英語を重要視する社会背景と沿うようにして、2000年頃より「英語村」が―81―中部大学教育研究№14(2014)81-86韓国英語村調査報告-日本からの語学研修・フィールドワークの可能性-澁谷鎮明・舛山誠一・伊藤裕子・中野智章・財部香枝

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