中部大学教育研究14
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1研究背景我が国の医療を取り巻く社会環境の変化に伴い看護師には多様な役割が求められており、看護基礎教育(学部教育)においても、看護実践能力の習得に向けた教育の強化の必要性が指摘されている1)。これまでは、臨床実習において既習知識と技術を統合させるという経験学習によって看護実践能力の育成が図られてきたが、近年、患者の権利や安全の観点から免許を有しない学生が患者に触れる機会(現場での体験)が制限され、臨床実習で実践能力を育成することが難しくなりつつある。そのため、卒業後の臨床現場で期待される実践力と基礎教育で習得した実践力に大きな乖離があると問題視されている1)。このような状況から、臨床実習を補完する新たな教育方法として、シミュレーション教育が注目されつつある。シミュレーション教育には、ペーパーペイシェント(紙上事例)を用いたケーススタディといった忠実性・再現性の低いものから、人体の一部模型や全身模型を用いた手技の習得を目的としたタスク・トレーニング、コンピュータに連動した人体模型を用いて病室等実際の臨床状況をできるだけ忠実に再現した中で行われる、忠実性・再現性の高いシミュレーション(フルスキルシミュレーション)などがある。前述したように、シミュレーション教育を促進していくことは、患者の安全性を脅かすことなく臨床実践能力を高めることができるため、教育カリキュラムの中に積極的に取り入れていくべきであると指摘されている2)3)4)。中村5)は、フルスキルシミュレーションを通じて、「自分ができないこと、知らないことに気づき、学習の必要性を感じ取ることができた」あるいは「自分のスキルに自信をもつことができた」など、学生のモチベーションが高められたと述べているが、フルスキルシミュレーションの効果については研究によって十分に検証されているとはいえない。本学科の小児看護学臨地実習では、実習施設の特徴から肺炎や気管支喘息といった呼吸器疾患や感染性胃腸炎などの急性疾患で入院する子どもを受け持つ機会が多い。小児看護の特徴として、病気の進行が速いこと、認知言語が発達途上であることから子どもの発する異常のサイン(徴候)を的確にとらえる観察力が求められる。しかし、西田らは小児看護学実習における学生の困難感として、「小児看護学実習へのイメージのギャップ」「子どもとの体験の少なさへの戸惑い」「関係作りへの不安」などを挙げている6)。筆者らも実習指導において実際の患児を前にした学生からは、「子どもにどうやって声をかけていいかわからない」「大人と違って子どものバイタルサインの測定は難しい」「咳で苦しそうだけれど、何をしてあげればいいかわからない」といった訴えを多く聞く。これまで成人を対象に実習をしてきた学生にとって、成人ではできていた知識の統合・応用が、対象が小児となったことでより複雑になるため、学生にとってはストレスの高い実習であるといえる。これまでも、本学の小児看護学臨地実習では、学生の臨地実習に向けたレディネスを高めることを目的として、小児モデル人形を用いた検温場面の再現を行っており、学生からは「実習前に子どもへの関わり方や、子どもへの検温の工夫などをイメージでき、安心につながった」と概ね評価を得ているが、小児モデル人形を前にしてのコミュニケーションの難しさ(相手からの反応がないこと)や、マネキンでの検温ではバイタルサインや呼吸音、腸蠕動音といった生体反応を再現できないことから、「実際の患児でも観察できるのか心配」といった評価も聞かれていた。今回、導入したシミュレーション教育では、状況や年齢に合わせた、コミュニケーションやフィジカルアセスメント方法について、小児患者シミュレータ“Simjunior”を通じ、そのやり取りの中で具体的に考案すること、学生グループで協力し、試行錯誤しながら答えを導き出すことが要求される。このように、学習者主体の教育を主眼とした小児看護学臨地実習前学内実習(以下、学内実習とする)でのシミュレーション教育の導入は、小児看護学臨地実習に向かうにあたっての知識のみでなく、学生グループの試行錯誤の過程を通じて、「やっていけそうだ」という自信(自己効力感)を促進することをねらいとする新たな教育方法である。学生の視点にたった教育効果の評価を行うことで、よりよい教育改善につなげていきたいと考えた。―1―中部大学教育研究№14(2014)1-8学生を主体とした小児看護学臨地実習前のシミュレーション教育効果の検討大村政生・山田知子・石井真清水いづみ・畑中めぐみ・山田恵子

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