中部大学教育研究14
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1はじめに2010年度より、中部大学ではキャリア教育科目のひとつとして「自己開拓」を設置した。2013年度は、その4年目の年にあたる。この授業は、基本的に8週間にわたっておこなわれ、各週の授業は2回連続、計16回の授業時間が設定されている。この授業の構成および内容についてはハラデレック・林・間宮・小塩(2011)に詳しく述べられているが、参加型ワークショップ形式で進められる授業形態となっている。この授業のねらいは、毎回のグループを中心とした作業を通じて、学生間の相互作用を促し、意識や考え方の変化を目指すものである。これまでに、自己開拓の教育効果については組織的な調査が行われており、3度にわたる報告を行ってきた(小塩・ハラデレック・林・間宮,2011;小塩・ハラデレック・林・間宮・後藤,2012;佐藤・小塩・ハラデレック・林・間宮、2013)。たとえば、小塩他(2011)では、自尊感情、進路選択に対する自己効力、セルフ・コントロール、ビッグファイブ・パーソナリティの各指標に注目し、自己開拓受講者(受講者群)と自己開拓を受講していない学生(統制群)とで比較を行った。そして、統制群と比較した場合、「自己開拓」の授業を受講することによって、受講生の自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、より広い時間的展望が得られること、生活習慣を変化させるような改良型セルフ・コントロールが向上すること、勤勉性のパーソナリティが上昇傾向にあることが示された。さらに、毎回の授業時の意識調査からも、受講生が徐々に自分自身に対する自信をもつように変化していることが示唆された。また小塩他(2012)と佐藤他(2013)によって、小塩他(2011)で見出されたのと同様の授業の効果が、3年にわたって一貫して見出されたことが報告されている。本研究は、自己開拓の授業開始から4年目にあたる2012年度においても、これまでと同様の教育効果が見出されるのか否かを検討する。そこで、調査内容および調査実施デザインも同様な手法を用いた。2方法2.1プレ・ポストテストに使用した尺度以下の尺度を、授業前後の受講生および統制群に対して実施した。いずれの尺度についても、小塩他(2011)、小塩他(2012)、および佐藤他(2013)で使用したものと同じであった。自尊感情自尊感情(桜井,2000)は、自分自身に対する肯定的な感覚を意味する。高得点であるほど、自分を肯定的に捉え、自信があり、自分に満足している傾向を意味する。2010年度に引き続き、この尺度は「私は、自分に満足している」「私はたいていの人がやれる程度には物事ができる」などの10項目で構成されており、それぞれの質問項目に対して、現在の自分に最もよく当てはまる選択肢を「いいえ(1点)」から「はい(4点)」までの4段階で回答させた。進路選択に対する自己効力進路選択に対して認知された効力予期すなわち自己効力を測定するために、浦上(1995)によって構成された進路選択に対する自己効力尺度を使用した。この尺度は「自分の能力を正確に評価すること」「自分が従事したい職業(職種)の仕事内容を探すこと」「一度進路を決定したならば「正しかったのだろうか」と悩まないこと」などの30項目で構成されており、それぞれの項目についてどれくらい自信があるかを「全く自信がない(1点)」から「非常に自信がある(4点)」までの4段階で測定した。この尺度によって測定された高得点であるほど、進路選択がうまくいくと認識し、進路選択行動を活発に行う傾向にあることを意味する。時間的展望より遠くの将来や過去の事象が現在の行動に影響するという時間的展望の広がりを測定するために、時間的展望尺度(白井,1991)を使用した。この尺度は「私の将来は漠然としていてつかみどころがない(逆転項目)」「毎日がなんとなく過ぎていく(逆転項目)」「私の将来には希望がもてる」などの19項目で構成されており、自分自身にどれくらい当てはまるかについて「当てはまらない(1点)」から「当てはまる(5点)」までの5段階で回答が求められた。この尺度によって測定された得点が高得点であるほど、過去や未来へと広い時間的な展望を持つことを意味する。―67―中部大学教育研究№14(2014)67-73キャリア教育科目「自己開拓」の効果-2013年度の授業について-佐藤友美・小塩真司・ハラデレック裕子・林芳孝・間宮基文

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