中部大学教育研究14
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2)運動器疾患の予防を目的としたコンディショニングの基礎を実践できる。コンディショニングの基礎にあたる実習内容は、「バイタルサイン」「ウォーミングアップ/クーリングダウン」「運動処方」「メディカルチェック」「ストレッチ」である。これらをあげている件数が少ないながらも、「運動を始める前」に必要だと述べていた。しかし「運動器疾患の予防」として、「一次予防」の視点でとらえる傾向ではなかった。一つ一つの実習内容を多面的にとらえ、安全に運動するための技術であることを学生が認識することがのぞまれる。3)対象者の観察や基本的な初期対応ができる。「バイタルサイン」を測定することは、対象者の健康状態を把握し、運動処方にいかし、運動の中止を判断する情報として用いることを述べており、バイタルサインの重要性を理解していた。学生は、対象者の多くを「競技スポーツ者」のイメージで記載されているが、実習内容「高齢者・妊婦体験」において高齢者・妊婦の体験ジャケットを着用したことから「高齢者」の動作が困難であったこと、妊婦の運動する際に気を付けることなど、競技スポーツ者以外の対象をあげた学生もいた。このことから、実習内容から幅広い対象者に関心をもちバイタルサインの必要性を理解しているのではないかと思われた。4)安全な運動ができるように環境を整備し、セルフケアの必要性を理解し実際に説明できる。「バイタルサインの測定の必要性を説明する」「テーピングの巻き方を教える際にその説明をすることも必要」と述べられていた。しかし、このことは、対象者が自分でテーピングすることができるように指導するといった目的を含んでいるとはいいがたかった。今後、対象者が自立するためにはどのような指導がよいか検討するために、実習内容の工夫が必要であると思われた。5.2どのような指導者をめざしているか学生の実習記録でほぼ全員が「運動中に絶対事故があってはならない」と述べていた。そして、万が一事故にあわないように、この万が一の対応として「心肺・・蘇生/AED」を取り上げて説明をしていた。学生は、1・2年次からスポーツに関係する疾患について学修してきたことと学生自身のスポーツの経験から、最も「心肺蘇生/AED」を重要視し、指導者としての課題ととらえているのではないかと思われる。健康運動指導士研修会の受講生に対して行ったアンケート調査によると、「運動中の事故に対するリスク管理対策を行っていますか」という質問に対して「AEDを設置している」と答えたものが、75.8%と最も高い割合であった2)。このように、「心肺蘇生/AED」は、スポーツ・運動場面では、リスク管理として重要な要素であり、学生は使用法についても理解し、実施できるまでの知識と技術の両面を学習できたのではないかと考えられる。また、「対象者に運動指導するには、コミュニケーションスキルが必要である。うまくコミュニケーションをとっておけば、指導される側の気持ちやモチベーションが変わってくる。また、最初に身体計測やバイタルサインの測定をするとき、コミュニケーションをとっておけば運動中に早期発見できる」「対象者と安全に運動を行うには指導者との信頼関係を築いていくことが重要である」とコミュニケーションをとおして人間関係の重要性が述べられていた。実習全体から技術だけでなく対人関係が安全に運動を行うことにつながるという重要な視点が導き出されたと思われた。保健医療学・医学の基礎および救急医学を学び、科学的根拠に基づいて安全で適切な健康運動を指導できる多くの指導者を社会に輩出することは、本学科の大きな目的でもある。そのためにも、今後この授業をさらに充実させていきたい。6まとめ・学生は、今まで指導される立場であったが、この実習を通して指導する立場を自覚していた。・学生は、運動することによって絶対事故やケガがあってはならないが、万が一の時に対応できるようにシミュレーションしておくことの必要性を述べていた。・学生が取り上げた実習内容は、「心肺蘇生/AED」が最も多く「バイタルサイン」「テーピング」と続いた。また、実施する技術だけでなく、教員が重視していたコミュニケーションについても学びを得ていた。・「病態の評価」「予防の視点」「対象の理解」「コミュニケーション技術」についての学びを深めるような実習内容を検討する必要がある。謝辞本実習にご協力をいただいた多くの春日井市消防職員の方に深謝します。参考文献1)健康運動実践指導者用テキスト(財)健康・体力づくり事業財団2011年4月―60―藤丸郁代・飯尾洋子・西垣景太・山田恵子・西村貴士・浦井久子・宮下浩二・矢澤浩成・伊藤守弘

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