中部大学教育研究14
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1緒言現代の妊産婦は基礎体力が低下しているうえに運動習慣が少ないため、子どもを産み育てるための健康づくりがますます必要となっている。また、妊娠・出産は自然の営みの中で女性が経験するできごとであるが、一方で、正常経過を逸脱すると母子双方の健康状態に支障をきたすおそれもある。少子化、核家族化、出産年齢の高齢化などによる女性の育児ストレスの増加など、妊産婦だけでなく産後の女性のメンタルヘルスも危惧されている。そのため、周産期医療においては「よりよく、より快適に」というウエルネス志向にもとづいた予防的指導やケアが重視されている。マタニティフィットネスはこうした背景において発展してきた。なかでも、マタニティビクスは産婦人科医師と運動指導の専門家によって開発された運動プログラムで、1985年に紹介された。全身性の有酸素運動で総運動量が大きいにもかかわらず、軽快なリズムに合わせて楽しく体を動かすことができることが特徴である1)。現在は日本マタニティフィットネス協会の資格試験に合格したインストラクターによって、全国約310か所の出産施設やスポーツクラブで指導されている2)。本学のスポーツ保健医療学科は運動指導者を目指す学生もいるため、妊産婦の運動指導についても理解しておく必要がある。しかし、女子学生であっても妊娠・出産の経験がなく、若い男子学生が多いゆえに、学生が妊婦の身体状況をイメージすることが難しい。そこで、学生に妊婦になりきってマタニティビクスの模擬指導を受けてもらい、妊婦運動の目的や運動指導の留意点を体験学習してもらったので報告する。2実践内容スポーツ保健医療学科3年次春学期の開講科目「運動器障害予防・処置法実習」において実施した。67名の学生を2グループに分け、30分間2クールの妊婦体験およびマタニティビクスの模擬指導を交替で行った。以下、妊婦体験における身体的特徴の説明とマタニティビクスの模擬指導の内容について述べる。2.1妊婦体験ー妊婦の身体的特徴の説明妊婦体験ジャケットはこれを着用することで、文字通り「妊婦を体験できる」教材である。重量は約7kgあり、妊娠9か月の妊婦の腹部の大きさとなっている。スポーツ保健医療学科と保健看護学科の備品を合計しても16着であったため、男子学生の約半数に着用させて妊娠後期の妊婦役とし、残りの男子学生はその妊婦に付き添ってきた夫役、女子学生は妊娠中期の妊婦役とした。科目責任者による演習についてのオリエンテーション後、担当教員がまず妊婦体験ジャケットの正しい着用方法についてデモンストレーションを行った。次に、マタニティビクスの模擬指導の前に、まず基本的な指導上の留意点を理解させる必要がある。そのため、妊婦体験ジャケットを着用した男子学生の一人にモデルになってもらい、とくに妊娠後期の妊婦の身体的特徴について説明した。本来、妊婦および胎児の安全確保のために、妊婦はマタニティビクスなどの積極的な運動を開始する前に医師の診察を受けて母子ともに正常経過であることを確認し、運動許可を得ることになっている。また、毎回の運動前に助産師などの専門家によるメディカルチェックを受ける。しかし、本時では時間の都合でこれらについては配付資料で簡潔に説明した。2.2マタニティビクスの模擬指導模擬指導は日本マタニティフィットネス協会認定インストラクターの資格を持つ担当教員が行った。通常のマタニティビクスのレッスンは50~60分であるが、いくら体力に自信がある学生たちとはいえ、急に「妊婦」になるため妊婦ジャケットを着用しての長時間の運動は、学生の身体的負担が大きいと考えられた。また、学内実習は時間の制約もあり、模擬指導はウォーミングアップ、ローインパクト、乳汁分泌促進、クールダウンからなる15分間で構成した。指導においては、運動のインストラクションだけでなく、声かけの一つ一つも実際の現場で妊婦に行っているようにした。動きのコンビネーションは、まず足を覚えてから手の動きを覚えて2つを組み合わせるといったように、基本的なエアロビクス指導上の留意事―53―中部大学教育研究№14(2014)53-56運動指導者を目指す学生に対するマタニティビクスの模擬指導-スポーツ保健医療学科における実践報告-横手直美・藤丸郁代・西垣景太・西村貴士・浦井久子

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