中部大学教育研究14
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的確に支援できる力が求められる4)。学生には「学習者主体の」「失敗を恐れず」と説明しているものの、教員と数名の学生を前にして実施をすることは緊張が高まる状況であることは容易に想像できる。実施前の学生の緊張度合いを把握し、緩和に向けた声掛けを十分に行って心的準備をさせること、どのような状況で学生を見守るか、助け舟をだすか、あるいはシミュレーションを中断するかといった判断ができるよう、「シミュレーション実施中の必要となる指導者のスキル(表4)」をガイドとし、教員間で毎回のシミュレーションを振り返り、ファシリテーターとしての改善点を見出していった。写真2はデブリーフィングの様子である。デブリーフィングの最初の5分で、周囲で観察していた学生には、ホワイトボードに目標ごとに「よかった点」を書き出させ、その間に教員(メインファシリテーターとサブファシリテーター)はシミュレーションの状況を振り返り、どのような発問を投げていくかを調整する。デブリーフィングの枠組みとしては、よかった点(Plus)からさらによくなるために改善する点(Delta)を導きだすPlus-Deltaと、情報収集(Gather)・分析(Analyze)・まとめ(Summarize)の枠組みで進めていくGASモデルがある4)。今回は、シミュレーションでの経験を目標に沿って振り返り、さらによくするために実際に体験した学生と周囲で観察していた学生らが主体的にディスカッションすることを目指し、Plus-Deltaの枠組みでデブリーフィングを進めていった。デブリーフィングを効果的に行うために、ファシリテーター(教員)においていくつかの指導ポイントを担当教員で共有した。①Plus-Deltaの枠組みで進めること、②教員は脇役・進行役であることを意識し、積極的に「あなたはどう思うの?」といった学習者の思考を刺激する投げかけをする、③常に目標を念頭において、デブリーフィングで気づいてもらいたい点を確認する、④抽象的でなく具体的なレベルの内容を示す(サブファシリテーターは、シミュレーション実施中の学生の行動、発言などをワークシートに詳細に記しておく)などである。③の目標を念頭においた投げかけのポイントについては、指導にあたる全ての教員が共有できるよう教育シートを作成し、5つの目標と目標ごとの小目標、どの段階で達成させたいか、目標に準じた学習者に期待する動き、デブリーフィングのポイント、必要な教材をマトリックスにし、セッションごとに目標の到達状況を教員間で確認していった。必要な教材は事前に提示するのではなく、学生が話し合う中で分からないことを学生自身が主体的に調べていく際の助けとして、教員が状況を見ながら効果的な教材を提示するためのものである(表5)。表6に実際にPlus-Deltaの枠組みで進めているデブリーフィングの内容を示す。―48―山田知子・石井真・畑中めぐみ・大村政生・清水いづみ・山田恵子写真1シミュレーションの実施写真2デブリーフィングの実施表4シミュレーション実施中に必要となる指導者のスキル(阿部,2013b)●写真中央:学生がペアになって、患児のフィジカルアセスメントのために病室に訪室している。●写真右側:メインファシリテーター兼オペレーターの教員が学生の様子を見守っている。●写真奥:グループの学生数名とサブファシリテーターの教員1名が、フィジカルアセスメントの実際を観察している。写真左側:メインファシリテーターの教員(学生達がホワイトボードに書き出した「よかった点」をもとに、デブリーフィングをすすめている。2013b

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