中部大学教育研究14
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5考察5.1頻度分析および共起関係について本研究の結果から、本学科の学生は、除脳硬直や平坦脳波など漢字の並ぶ用語、IABPやSIMVなどの略語や用語、トリアージやヘマトクリットなどのカタカナの並ぶ用語についてわからないと感じる傾向が明らかになった。また、ウイリス動脈輪や前交通動脈など、すでに既習の解剖学や生理学、疾病治療論で学習したと考えられる用語も、わからない用語として多く挙げられていた。さらに、トリアージやIABPなど急性Ⅰで教員が近々に講義した内容の用語でさえも、わからない用語として挙げられていたことが明らかになった。「救急外来と集中治療室における看護」では、“トリアージ”の出現頻度は43であった。受講者のうち約46%が“トリアージ”という用語をわからないと挙げたが、“トリアージ”は第1回の講義の範疇でテキストにも出てきている。つまり、講義で説明して講義中に何度か使われた用語であっても、約半数の学生の記憶にとどまっていない用語といえる。また、“IABP”の出現頻度は38であった。この用語は、第8回の講義で説明をしているものである。IABPとは、重症心不全患者の治療の一つとして行われる大動脈バルンパンピングという治療の略語であるが、約40%の学生にとっては、わからない用語であったといえる。「人工呼吸器を装着した患者の看護」では、“経鼻カヌラ”の出現頻度は23であった。“経鼻カヌラ”は、軽度の低酸素状態にある患者に対して、酸素を経鼻的にチューブで投与する場合に使用する。第5回、第6回の学内実習の際に、実物を見せて触れているものである。しかし、今回の結果から学生は見て触れたものですら、それが何であるかを認識できないこともあるといえる。「くも膜下出血を発症した患者の看護」では、病態を解剖学的に説明し、発症による症状や検査、治療、必要な看護援助について講義を行うが、“ウイリス動脈輪”“前交通動脈”“血餅”など、解剖学で学習したはずの内容が挙げられており、記憶の定着がなされていないといえる。共起関係についてみてみると、第9回「救急外来と集中治療室における看護」の講義の中で症例患者の疾患である“緊張性気胸”を中心語としたときに“胸腔ドレナージ”や“トリアージ”と強く共起していた。緊張性気胸は、第3回の講義で出てきている疾患であり、その治療としての胸腔ドレナージについても既習である。“緊張性気胸”がわからない学生は、前後で出てくる治療法の“胸腔ドレナージ”もわからなかった。また、“IABP”も、“除脳硬直”や“トリアージ”と強く共起していた。つまり、すでに学習したと考えられる用語を挙げた学生は、同様に既に学習した内容の用語を挙げる傾向にあった。しかし、「人工呼吸器を装着した患者の看護」「くも膜下出血を発症した患者の看護」では、新しく学習する用語同士での共起も強かった。このことから、学生は新しい用語に関心を持ち、わからない用語として挙げて取り組もうとしていることが推察できる。以上のことから、本学科の学生は、予習として講義資料を一読して関心を示す一方で、解剖学や生理学、疾病や治療に関する既習の知識が定着できていないままに次の講義を受けている傾向があると言える。また、漢字・カタカナの並ぶ用語や略語について、とくに理解ができずに記憶にとどまっていないことが示唆された。5.2急性Ⅰにおける講義への取り組み先行研究では、看護系大学生に対する教育活動を行う上で問題となる学生の状況として、知識や理解、思考力についての基礎学力の低さが挙げられており2)、まさに本学科の学生の問題点とも重なっている。林らは、学生の解剖学や生理学の知識が定着していない現状を指摘しており、教育方法や内容の検討の必要性を述べている3)。今回のわからない用語の中でも、解剖学や生理学での学習した内容が出てきており、本学科の学生もこの傾向にあることは容易に推測できる。現在、大学・短期大学への志願者総数に対する入学者総数の割合は92%に達しており、社会では大学全入時代が到来したと言われている。こうした中で、大学教育全体の大きな課題として、目的意識の希薄化、学習意欲の低下等が進行しており、多様な学生への対応と併せて学士課程で学生が身に付けるべき学習成果を明確化していくことが求められている1)。看護学科という職業と直結する学科においても同様である。看護実践には疾患の知識も必要であるために、看護を教授する教員は、疾病病態学や疾病治療論の内容をある程度把握し、既習科目のテキストを使用することで学生に想起させた上で、看護に必要な新しい知識を教授することが有効であると考える。今回の結果をふまえて、急性Ⅰの事前課題では、解剖学や生理学的な知識を想起できるような予習内容を課題として求め、“以前に学習した”ことを意識づけさせる必要がある。学生は課題に対して、安易にインターネットで検索して終わらせる現状は否めない。そのため、既習科目のテキストも含めたテキストを活用した課題を考えることが必要である。講義では、前回講義の復習や想起ができるような導入を行い、学生が苦手とする傾向の用語をわかりやすい言葉で説明することが必要である。さらに、略語や漢字が並ぶ用語については、学生にイメージしやすいような動画や映像などの資料を用いる―43―成人急性期看護学Ⅰにおける看護学生の学習傾向と課題

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