中部大学教育研究14
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4考察本研究では、キャリア教育科目「自己開拓」の長期的教育効果を検証すべく、「自己開拓」の受講が就職ガイダンスへの参加状況や進路決定に及ぼす影響を検討した。さらに、就職ガイダンスへの参加状況が就職決定に及ぼす影響についても補足的な検討を行った。4.1「自己開拓」が就職ガイダンス参加に及ぼす影響はじめに、「自己開拓」の受講者は非受講者と比べ就職ガイダンスへの参加率が高いことが明らかとなり、「自己開拓」の長期的効果が確認された。「自己開拓」は就職活動の方法やスキルを教授するといった、就職活動の能力形成に特化した科目ではない。したがって、「自己開拓」の授業の中で就職ガイダンスの参加が強制的に指示されたということはなく、受講者は自発的に就職ガイダンスに参加したと考えられる。自発的な就職ガイダンスへの参加は、自発的な進路選択行動の現れともいえるだろう。小塩他(2011)は、本研究の対象者が「自己開拓」の授業を通して、自尊感情や進路選択に対する自己効力、時間的展望、改良型セルフ・コントロールを高めたことを明らかにしている。つまり、「自己開拓」を受講することによる心理的変容が、自発的な就職活動という実際の行動を促進した可能性がある。本研究で、「自己開拓」受講後の実際の就職活動を検討したことで、短期的な心理的変容が長期的には自発的な行動に結びつくことが新たに示唆された。このような自発的な行動は、就職活動のみならず、学修活動を主とした課程内活動やアルバイトなどの課程外活動といった学校内外のさまざまな活動としても確認され、充実した学生生活へと結びついていた可能性がある。今後は、学生生活の満足度や充実度などとの関連についても明らかにし、「自己開拓」が学生の就職活動に限定されず、人生としてのキャリアにポジティブな影響を及ぼしていることを明らかにすることが必要だろう。4.2「自己開拓」が進路決定に及ぼす影響次に本研究では、「自己開拓」の受講者は進路決定の比率が高い傾向にある一方、非受講者は進路未決定の比率が高い傾向にあることが示された。「自己開拓」は、順調な就職活動や安定した社会人生活を目標とするキャリア教育ではなく、キャリアを人生と捉え、人生の中で生きる力を自ら育てることを目標としたキャリア教育である。その結果が、就職への進路決定のみならず大学院進学を含めた形での進路決定を予測したことは、キャリア教育科目としての「自己開拓」の意義が確認されたといえよう。ところで、就職者における就職先の資本金や従業員数といった企業規模には、「自己開拓」の受講の有無による有意な差はみられなかった。本対象者において、「自己開拓」を受講することで自尊感情や進路選択に対する自己効力が高まることが明らかにされている(小塩他、2011)。このことを勘案すると、「自己開拓」を受講することで、より企業規模の大きい就職先へも臆することなくチャレンジし、そのような企業の選択・決定を行っていることが予測される。しかし、「自己開拓」の受講による企業規模の差はみられなかった。ただし、企業規模が大きいことが就職活動の成功とは一概には言い切れない。自分自身がどれほど納得し、満足した就職先を選択できたかが、就職に対する不安を軽減し(石本・逸身・齊藤,2010)、その後の適応を促すことが示唆されている(中島,2013)。したがって、今後は就職先の規模といった外的な指標ではなく、自分自身が就職先に納得しているかといった内的な指標からの検討を行い、「自己開拓」の受講が進路決定に及ぼす影響をより詳細に検討していくことが重要であると考えられる。4.3就職ガイダンスによる支援効果「自己開拓」の受講者が、就職ガイダンスにより多く参加し、進路を決定にまでつなげているということは、就職ガイダンスに参加し就職活動の準備がしっかりとできている者ほど、就職活動を上首尾に進めることができ、その結果、内定を獲得できたというプロセスが考えられる。そこで、就職ガイダンスへの参加状況が就職決定に及ぼす影響についても補足的に検討した。しかし、就職ガイダンスの参加率の高さは就職決定に有意な影響を及ぼしていなかった。すなわち、就職ガイダンスに多く参加するだけでは、就職先を決定することは困難であるといえる。そもそも、内定獲得につながる就職活動を行うためには、就職ガイダンス以外にもさまざまな準備をしておく必要があるだろう。たとえば、自己探索や環境探索といった進路探索行動は就職活動の取り組みに影響を及ぼすことが明らかにされていることから(Stumpf,Austin,&Hartman,1984)、就職活動に対する準備は直前の就職ガイダンスのみでは不十分であり、進路探索行動の蓄積が重要とも考えられる。「自己開拓」の受講者が授業を通してキャリア意識を形成することができているのであれば、就職ガイダンスにより多く参加する以外にも、自己探索行動や学修、課外活動など、学校内外のさまざまな活動にも積極的に参加していることが予想される。そのため、就職活動直前に行われる就職ガイダンスのみでは、進路決定―18―杉本英晴・佐藤友美・寺澤朝子

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