中部大学教育研究14
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1問題と目的近年、大学から職業社会への移行の困難さが社会的関心を集めている。こうした状況に対応すべく、平成23年度より大学設置基準が改訂され、「大学におけるキャリアガイダンスの推進」が定められた。このように、現在「キャリア教育」の推進は大学教育における優先順位の高い課題の1つであるといえるだろう。キャリア教育の重要性に基づき、中部大学では、キャリアを人生と捉え、就職活動に関するガイダンスの提供やテクニックの習得にはとどまらない、学生が生きる力を自ら育てることを目的としたキャリア教育を推進してきた(ハラデレック・林・間宮・小塩,2011)。具体的には、自己を知り、他者とのかかわり方を学び、大学生活のライフプランを立てることで、大学卒業後の自律的な進路選択を促すことを目標としたキャリア教育科目「自己開拓」を平成22年度より開設している。この「自己開拓」は、キャリアに対する知識を身につけるような専門的知識伝達型の授業形式ではなく、学生が学部横断的に受講するグループワークを中心とした参加型授業形式であり、授業を通して彼らの社会との関わり方や将来への意識といったキャリア意識の形成が目標とされる。さらには、自律的な進路選択を行う力を身につけた結果、就職率の向上につながるといった長期的な教育効果も期待される。これまで、「自己開拓」における授業を通しての教育効果については、開設からの3年間、継続的な検証が行われている(小塩・ハラデレック・林・間宮,2011;小塩・ハラデレック・林・間宮・後藤,2012;佐藤・小塩・ハラデレック・林・間宮,2013)。これらの研究における「自己開拓」の受講者と非受講者との比較検討の結果、「自己開拓」を受講することによって、受講者の自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、時間的展望が将来に向けられること、生活習慣を変化させるような改良型セルフ・コントロールが向上すること、勤勉性のパーソナリティが上昇傾向にあることが示されている(小塩他,2011;小塩他,2012;佐藤他,2013)。また、毎回の授業時の意識調査からは、受講者が徐々に自分自身に対する自信をもつように変化していることが示唆されている(小塩他,2011;小塩他,2012;佐藤他,2013)。このように、「自己開拓」の短期的な教育効果は十分に得られている。しかし、その後のキャリア発達や進路選択・決定といった長期的な教育効果についての検討はなされてきておらず、今後の課題とされている(小塩他,2012)。平成26年3月には、平成22年度に開設された「自己開拓」の受講学生が卒業を迎えることとなり、4年間の長期的教育効果の検証が可能となった。これらを勘案すると、1年次に受講した「自己開拓」がその後のキャリア発達、および、進路選択・決定に及ぼす影響といった長期的な教育効果を検証する必要があると考えられる。そこで、本研究では進路選択・決定の観点からキャリア教育の長期的効果を検証すべく、「自己開拓」が就職活動や進路決定に及ぼす影響について検討することを目的とする。なお、就職活動について、本研究では本学のキャリア支援課(キャリアセンター)が主催する就職ガイダンスへの参加に焦点をあてる。この就職ガイダンスは、就職活動対策の一環として、活動開始直前の3年次の学生全体に参加を求める支援である。具体的には、適職診断やSPI対策、自己理解、業界研究、さらには、履歴書添削や面接対策をも含んでおり、就職活動に取り組む上で教育・支援的機能を有している。そのため、「自己開拓」に長期的な効果がみられるのであれば、「自己開拓」の受講群は受講していない統制群に比べ、自律的な進路選択を行う力が身についているため、就職活動ガイダンスにより積極的に参加していると予測される。また、「自己開拓」の受講者に見出された授業を通した教育効果(小塩他,2011)、および、「自己開拓」の授業の総括として行われた将来のライフプランと大学在学中におけるアクションプランを設計するという授業内容(ハラデレック他,2011)を勘案すると、「自己開拓」受講者は受講後の大学生活で積極的に進路選択を行うだけでなく、キャリア形成に関するさまざまな活動を行い、進路決定にまで結び付けていると考えられる。そのため、進路決定という観点からの長期的効果がみられるのであれば、「自己開拓」の受講者は統制群と比べ、卒業時点で進路決定の比率が高いことが予測される。本研究により、「自己開拓」の長期的な教育効果が―15―中部大学教育研究№14(2014)15-20キャリア教育科目「自己開拓」の長期的教育効果1)-就職ガイダンスへの参加状況および卒業時点の進路状況からの検証-杉本英晴・佐藤友美・寺澤朝子

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