中部大学教育研究13
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しかし、これは「カンバセ」終了直後のケーススタディーであり、その後の生活にどのような影響をもたらしたのかの検証は行われていない。そこで、本稿では「カンバセ」を経験した卒業生を調査し、具体的な「カンバセ」のその後の影響を検証した。4目的本研究の目的は、卒業後、参加者が「カンバセ」経験をどう捉えているか、またその後の行動へ具体的にどのような影響を及ぼしているかを検証することである。5調査方法5.1対象「カンバセ」に参加した経験のある卒業生の中から無作為に30名を選び、そのうち連絡可能な12名(男性9名、女性3名)を今回の調査対象とした。9人が社会人(日本語教師1名を含む)、1名が就職活動中、1名がアルバイト、1名が留学中である。5.2時期平成24年2月~4月5.3方法質問紙によるアンケート調査を行った。質問事項は、1)「カンバセ」経験の振り返り、2)自分自身の変化、3)現在への影響、の3点である。質問紙の作成には、文部科学省中央教育審議会『21世紀を展望した我が国の教育のあり方について』(平成8年)をもとに文部科学省が作成した『国際理解教育:国際化対応への3つの視点』1)異文化と共生できる資質や能力、2)コミュニケーション能力、3)自己の確立、を参考とした。6結果6.1「カンバセ」経験の振り返り「カンバセ」参加中は、12名全員が週1回以上留学生と会っており、9名が学外でも活動したと答えた。印象に残っていることについては、互いの部屋で自国の料理を作り、食べた経験や、留学生からの質問に答えられず困った経験が挙げられた。12名中7名が、パートナーを「友人・親友」と捉えていることから、対等な友人関係で交流していたことが窺える。また、留学生からさまざまなことを学び、得ることが多い経験であったと振り返るとともに、一方で、留学生の日本体験を有意義なものにすることが自らの役割であると感じていたことがわかった。以下、印象に残っていることについてのコメントを挙げる。・下宿で飲みながら話した。一緒にたこ焼きを作って食べた。・誕生日にケーキをもらった。・寮で一緒に韓国料理を作って食べた。・お互いの国のことを話した。・日に日に留学生の日本語力が向上し、最後には最初に会った人とは全く違っていた。・懇親会が楽しかった。・質問されて答えられないことがあった。・最初のうちは、何を話していいかわからず、困った。・言葉より文化的な質問が多かった。6.2自分自身の変化表1「自分自身の変化」についての回答結果「カンバセ」参加当時、異文化を理解し、尊重できるようになり、視野が広がったと感じていることがわかった。また、そのことが異文化への対応力の向上に繋がっている様子が窺える。留学生と交流することで、日本人としてのアイデンティティが意識化され、自文化に対する知識のなさに気づいている。また、交流の際のさまざまな気づきから、外国語の必要性をはじめ、コミュニケーション能力の重要性について自覚し、具体的な方策を講じてパートナーとの関係を築いていったと振り返っている。以下、調査協力者から得られた各質問に対するコメントを挙げる。―88―上田美紀・渡辺民江

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