中部大学教育研究13
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1はじめに大学の国際化が注目される中、各大学においては積極的に海外の大学と提携を結び、交流を進めている。本学においても、海外提携校との交流を行っており、日本語教育センターでは、平成5年より20年間に渡り海外提携校からの交換留学生を対象とした日本語教育を行ってきている。提携校数が増加するとともに、そのニーズに合わせ、期間も3ヶ月、6ヶ月、1年とさまざまになり、クラスレベルも初級から上級まで幅が広がってきている。さらに、学習動機もポップカルチャーへの興味から将来の研究や就職に結びつけたい等まで、多様化している。日本語教育センターでは、これらを意識した科目やレベル設定を行い、きめ細かい日本語教育を目指している。それに加え、短い留学期間により効率的に日本語力を向上させ、また日本をより深く理解する機会を与える方法として、教室内での授業のみならず、教室外での日本人との直接接触場面の提供をプログラムに組み込んでいる。平成5年日本語教育センター(当時の名称は留学生別科)設置と共に「カンバセーション・パートナー・プログラム(以下「カンバセ」)」をスタートさせ、以後改善を重ねつつ継続してきている。「カンバセ」の第一義的な目的は、留学生の日本語会話力の向上、日本人との人的ネットワークの構築、日本文化・社会の理解促進、留学生の心的サポート等である。しかしながら、長年の活動の中で第二義的に日本人学生への影響も大きいことがわかり、検証を行ってきた。本研究では、卒業後の「カンバセ」経験者への調査を行い、その影響について検証した。2「カンバセ」の概要「カンバセ」とは、本学日本語教育センターで学んでいる留学生に、日本人学生を会話のパートナーとして紹介するプログラムである。日本人学生の参加者は全学部学科生を対象とし、各学期の始めに希望者を募る。日本人学生はボランティアであり、授業科目との連携はしていない。留学生1名と日本人学生2名のグループを作り、紹介し、各グループには最低週に1回会い、日本語で会話をすることを課している。各グループの活動は学生の自主性に任せているが、日本人学生には、会うたびに日本語教育センターにメールで簡単な報告を提出させている。また、オリエンテーション時には、留学生の背景に配慮し発言や行動をすること、お互いの学習の妨げになる行動は慎むこと、誤解や問題が生じた場合は速やかに報告すること等を指導している。日本語教育センターは活動のシステムを作り、通常は黒子のような立場であるが、何らかの問題が起こった際には、サポートに入ることのできる態勢をとっている。各学期の終了時には、「カンバセ」参加者全員での懇親会を行い、さらに親睦を深めている。3先行研究「カンバセ」の効果検証に関しては、活動そのものについての検証(宮副他2003、渡辺他2004)、および「カンバセ」参加者(日本人学生)の異文化対処能力の変化についての検証(上田他2011)等を行った。前者の検証では、「カンバセ」に参加した留学生、日本人学生、担当日本語教員のアンケート・インタビュー調査の結果をまとめた。その結果、留学生の日本語習得及び異文化理解を促すという高い評価は見られたものの、活動状況の把握不足・教員への「カンバセ」効果の情報不足・日本人学生へのオリエンテーション不足等、システム的な問題点も指摘された。これらの点に関しては、改善を重ねてきている。後者の検証では、日本人学生の異文化対処能力の変化についてケーススタディーを行い、異文化対処能力の4つの要素(山岸1995)に基づき評価し、その具体的変化を示した。その結果、1)「カルチャラル・アウェアネス」においては、相手国の文化理解やそれに関する関心の点で気づきがあったことがわかった。2)「自己調整能力」に関しては、「柔軟性(判断しないこと)」および「オープンネス(受容)」の領域で意識が高まったことを示した。3)「状況調整能力」に関しては、「対人関係を確立し、維持する能力」に変化があったことが窺えた。4)「感受性」に関しては、それに基づいた「相手を気遣い尊敬し配慮する発言」が多く見られた。以上のことから、本ケースの日本人学生は、異文化対処能力の4つの要素に関して自らの変化に気付いていることが明らかとなった。―87―中部大学教育研究№13(2013)87-90「カンバセーション・パートナー・プログラム」が参加学生に与えた影響-卒業生へのアンケート調査を通して-上田美紀・渡辺民江

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