中部大学教育研究13
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1問題と目的1.1今、求められている初年次教育初年次教育は、大学入学者の著しい増加とあいまってその必要性および重要性が注目されるようになり、2007年には97%の大学が実施するに至っている(LeeUpcraft,M.ほか、2007;国立教育政策研究所、2009)。最近の初年次教育の目的は、初年次教育学会の定義によれば、大学という場の理解、大学の中での人間関係の構築、スタディスキルの獲得、クリティカルティンキングなどの思考法を身につける、学生の態度変容(受動から能動へ)を促す、学生の自立、自律を促す、などの8項目となっている(河合塾、2010)。しかしその取り組みや成果に関しては、大学の規模や入学難易度の違い、入学後の中退率や留年率の違い、あるいは担当教員の専門分野や意識の問題などから大学間の差が大きいといわれる(山田、2012)。このような状況の中で、今求められる初年次教育を考えるとき、志望の異なる目の前の学生の現状やニーズと大学の教育目標との間をどう繋いでいくかという観点での検証が重要であろう。中部大学でも、2010年から初年次教育を共通教育科目「スタートアップセミナー」として単位化した。これは、共通内容、共通テキスト(中部大学全学共通教育部初年次教育科、2013)を核にしながらも、各学部学科で独自のシラバスを作成しそれに沿って実施するものである。児童教育学科では事情により2012年度からこれを開始している。筆者らは、2012年度の児童教育学科の「スタートアップセミナー」が学生にとってどのような意味や成果があったのかについて、事後の聞き取り調査を実施し検討した(吉田ほか、2013)。その結果、聞き取り対象の8名の学生に限って言えば、「スタートアップセミナー」は楽しく有意義で、児童教育学科のこれからの学びの概要を知る良い機会となることが示唆された。この調査を契機として、児童教育学科における初年次教育のよりよいあり方を探っていく必要がある。1.2児童教育学科の初年次教育の目標と内容児童教育学科の教育目標は、教育学関連科目等の総合的な学びをとおして社会に貢献する人間を育てることであり、創設(2008年度)以来その目標に沿って学部学科独自の初年次教育を実施してきた。その目標と内容については、2012年度の実践報告(吉田ほか、2013)に述べたが、2013年度の若干の変更点にも触れながら簡単に要約しておく。児童教育学科の2012年度からの「スタートアップセミナー」の目標は、本大学の初年次教育としての「スタートアップセミナー」のねらいを核とし学科独自の課題を加えたものである。すなわち、本学の一員としての帰属意識を高め、建学の精神に沿った人間育成を行うと同時に、児童教育学科の教育目標に対する理解を深めさせること、そのための活動を通して、学生相互の人間関係を強め、有意義で健康的な学生生活を送るために必要な基礎的・実践的な習慣や態度を熟成させることである。これらを達成するための授業の具体的な教育内容は、建学の精神、基本理念にかかわる活動、学生生活のライフプラン・キャリアプラン、学びのスキル、学科の特性理解の4つである。具体的には、「建学の精神、基本理念にかかわる活動」として、建学の精神に関する聴講および社会貢献活動(ボランティア活動など)のプランニングと実施を奨励する。「学生生活のライフプラン・キャリアプラン」では、自己理解や今後のキャリアに関する400字の作文を3回、輪読・推敲しながら完成させる(「私400」と命名)。「学びのスキル」では、社会的環境に関する理解の促進とプレゼンテーション技術やコミュニケーション力の向上を目指して、グループ対抗のディベートを行う。「学科の特性理解」では、学科教員の専門分野について聞き取る機会を作り、また「学習指導要領学習会」として学習指導要領の音読や要約を行い、小学校ではどのような教科・領域で何を学ぶのかを概観する。そこで本授業のシラバスは、これら4つの活動を軸に他の活動を含めたものになっている。実際の授業は14回の授業として次頁のように展開した。なお、本授業の趣旨と目標を効果的に実現するために、学生を5グループに分けて専任教員2名がそのクラスを担当した(各グループの学生数は16名~18名)。さらに教員は学科で作成した<スタートアップセミナー教員マニュアル>の冊子に基づいて授業を進め、適宜―67―中部大学教育研究№13(2013)67-78「スタートアップセミナー」を学生はどう受け止めたかその2-児童教育学科の2年目の試みを検証する-古市真智子・吉田直子・味岡ゆい・長尾寛子

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