中部大学教育研究13
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1はじめに近年、高大連携が普及し、全国の高校および大学で様々な取り組みがされている。高大連携が普及する直接的理由として、中央教育審議会答申において、「初等中等教育と高等教育との接続の改善のための連携の在り方」に関する提言がなされたためと推測している。学校法人中部大学には、春日丘高等学校と中部大学第一高等学校を設置している。高大連携教育に関する諸問題は、いまや同学校法人が対応すべく重要な課題である。事実、2つの併設校と中部大学は、平成24年度より理事長を長とする高大連携に関する話し合いを行い、諸課題を解決するために熱心に議論して来ている。同じ学校法人が共有する建学の精神「不言実行」の教育方針の下、長い歴史に支えられた伝統と共に、21世紀を担う人材を併設校・大学との連携により、中部大学人の象徴である「あてになる人間」を育てる事は、同法人の「不言実行」の実践であろう。そこで、高等学校教育における「生物」において、最初に学ぶ「細胞の構造と機能」の理解を深めるため、生物の基本単位である「細胞」の中心となる核の中の「DNA」について、実際に手を動かしてDNAを抽出する実験を行うことにより、大学で行われている教育・研究への興味・関心を高めるとともに、高校レベルの「生物」が重要かつ基礎になっていることを気づかせるための高大連携教育の取り組みの一つである‘出張模擬実験’を行ったので報告し、考察する。2出張模擬実験中部大学生命健康科学部生命医科学科より、材料(鶏レバーと必要試薬)、白衣および実験器具をすべて持参し、高校の理科教室で参加生徒全員が手を動かして実験を行えるように、ビーカーや薬さじなど一人1セットとなるように準備した。また、資料として、遺伝子とは?という導入部と実験手順が書かれたものを準備し、実験過程でメモができるような問いかけも作成しておいた。授業開始時に、白衣を着用することにより、通常の生物の授業とは異なり、これから大学で行うような実験をするという期待感を高めさせた。導入部分ではDNAとは?と問いかけを行い、これまでに学んでいる知識を整理させるとともに、実験材料の準備をした。実際の実験は、材料を混合するところから生徒の目前で行い、今何をしているのか?何のためにこの試薬を使用するのか?など、分かりやすくかつ丁寧に説明しながら実験を進めた。また、実験の途中で、見た目の変化やにおいの変化など、各自が感じたことを詳細に記述させた。最初は、簡単なことでもなかなか表現できなかった生徒が多かったが、難しく考えなくても思ったことをそのまま書けば良いというアドバイスを受けて、素直な感想が書かれるようになった。実験が進むにつれて、材料が変化していくのを感じるとともに、ここから本当にDNAが取り出せるのか?と、半信半疑になりながらも手を動かし、自然と夢中になっている生徒達になっていた。実験の過程で、鶏レバーを湯煎する必要があり、特有のにおいが発生して鼻についたが、そのことよりも最終産物であるDNAが可視化できることへの期待感が増しており、最後に入れる試薬は生徒全員で一斉に行い、ビーカーの中の変化に一様に驚き、実験成功の達成感に浸っていた。実験終了時には、復習として実験内容の理解を深めるとともに、高校生物で習っていることが自分達でも簡単に実験で明らかにすることができることを改めて実感することにより、大学での教育・研究に興味を持たせることができた。3アンケート調査この出張模擬実験の事前事後で、アンケートを実施した。調査対象者は、平成25年5月に中部大学第一高等学校3年で生物を選択している24名の生徒を対象とした。生徒には、調査の趣旨を説明し、学校の成績や教員からの評価には、一切関係のないことも伝えた上で、同意を得て調査を行った。その主旨は、生物に関連した学問に対する意識調査である。質問紙は、事前・事後に同じ質問を行った2項目と、終了時にのみ回答を求めた3項目で構成されていた。その調査の結果、「大学の学問や研究に対して期待があるか?」の質問に対して、出張模擬実験前では「大変そう思う」9.0%、「そう思う」63.6%であり(図1)、ただ漠然とした意識であったが、出張模擬実験後では「大変そう思う」52.1%、「そう思う」43.5%であった(図2)。―51―中部大学教育研究№13(2013)51-54併設高校への出張模擬実験(生物分野)報告と考察竹内環・平岩史恵・石田拓三・西垣景太・伊藤守弘

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