中部大学教育研究13
49/148

1はじめに本稿は、韓国の私立大学における中国学科の専門教育と学科運営の状況について報告し、本学中国語中国関係学科などのような、海外研究系学科の専門教育とその方向性について考察を加えることを目的としている。韓国は日本と同様、あるいはそれ以上に中国との経済的結びつきが強く、人的交流も盛んである。例えば中国の大学では、かなり以前より韓国人留学生が最も多いとされており、本学の中国への派遣留学経験者も「一番多い留学生は韓国人学生」と述べる。韓国の青年層の中国留学熱は強く、留学が一つのキャリアの入り口と考えられている節もある。特に中韓関係は1992年の国交正常化以降次第に緊密化しており、特にここ数年は、韓国における中国語と中国への関心が高まっている。そのような中で韓国の大学には、中国語を教授する「中国語学科」などの語学系学科、あるいは中国語学習に加え中国関連知識を教授する「中国学科」がこれまで多く設置されてきている。日本における中国系学科や、その他アジア系の海外地域研究を考える上で、日本と立場がよく似ており、社会背景においても類似点の多い一方で、中国系学科への需要が高い韓国における大学の事例を参考とすることは重要と考える。しかしながら管見の限り、これまで日本の大学関係者が、韓国の大学における中国学科の状況を明らかにしたものはほとんど見られない。そこで本稿では、筆者らが平成25年3月に行った、韓国のN大学の中国学科に関する現地調査をもとに、上述の点について報告し、考察を加えたい。2韓国の大学制度と中国語・中国研究系学科韓国の大学の状況や制度は、大学を取り巻く環境などを含め日本とよく似ているが、やや異なる部分もあるので、その特性について、本稿に関連する部分を中心に確認しておきたい。まず、大学の呼称は日本とやや異なっている。総合大学を「大学校」、学部を「大学」と呼び、単科大学も「大学」と呼ばれている。また日本の短期大学にあたる2年制大学は「専門大学」と呼ばれている。日本との対比でさらにややこしいのは近年、「学部制」が導入されたことである。これは、主として上記の「大学」で学科ごとの定員を定めずに募集する際に用いられ、場合によっては「大学」の中に「学科」と「学部」が併存することもある。現在、韓国の四年制大学の数は韓国全土で200余りであり、5000万人弱の人口に比して、その数は多いといえるかもしれない。またその背景には、韓国の大学進学率の高さ(約70%)も影響しているものと考えられる。また日本の大学との大きな違いの一つは受験制度であるとも言われている。国立大学はもちろん、私立大学も、日本のセンター試験のような「大学修学能力試験(修能)」を受け、その点数に二次試験などの点数をプラスして合否が決定され、私立大独自の試験は基本的に存在しない。韓国の場合、これまで大学に行くことが将来の職業選択に大きな影響を及ぼしていた上に、以前はこの試験が大学進学の唯一の機会であり、現在でも大きなウエイトを占めている。このため受験戦争が激化したとも考えられる。このような多くの大学の中で、中国語、あるいは中国研究を行う学科はどのくらいあるだろうか。各大学のホームページなどを参考にすると、表1に示す通りである。表のように、筆者らが確認できた中国語・中国研究系学科・専攻を持つ四年制大学は、89大学にのぼった。最も多いのは、日本の文学部に相当する「人文大学」等に設置されている「中語中文学科」がその多くを占めている。これは日本でいう「中国文学科」に相当するものであると思われる。また一部私大にみられる「中国言語文化学科」なども基本的には同じ特性を持つものと推測される。これは国立大、私立大を問わず存在する。むしろ総合大学で人文大学を持っていれば、たいていこの種の学科を有している。例えば韓国において有名大学の代名詞である「SKY」に入るソウル大、高麗大、延世大をはじめとした著名な大学にも見られる、きわめて一般的な学科であるとも言え、中国関係の学科としては圧倒的に数が多い。これは日本も同様であるのかもしれない。なお、日本で言うところの中国文学科に中国研究を加えたような「中語中国学科」というものも―39―中部大学教育研究№13(2013)39-42韓国の私立大学における中国学科の教育と学科運営澁谷鎮明・舛山誠一・和田知久

元のページ  ../index.html#49

このブックを見る