中部大学教育研究13
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巻頭言自前の大学教育を探る昨年暮れに交代した政権は、経済の再生と教育の再生こそが国の再生の基盤であると位置づけ、内閣に直属の有識者会議なるものを多数組織して、その再生術を矢継ぎ早に閣議決定している。教育再生に関する主な提案は、「教育再生実行会議」、「骨太方針」、「日本再興戦略」、「教育振興基本計画」などに見られる。これらの提言は、ここ20年来停滞している我が国の産業経済活動を活性化するための教育政策の追求である。とりわけ、経済のグローバル化に必要な人材育成策であり、世界的に規格化され標準化された知識、技術、技能と英語を身につけさせ、当座のグローバル市場で活躍できる人的な資源の確保を目指したものであり、その評価は数量化できる事項を世界基準で行うことにしている。もともと、人材とは「材料としての人」とか、「人的な資源」と言った意味ではなく、「人才」(学問によって磨かれる広い見識を持った人物)を指している(矢野智司、2013)。今日の教育政策では、「教養」とか「人間形成」と言った大学教育の根幹に係る教育成果は、数量化が困難なので、その評価には冷淡である。大学は、専門分野に必要な知識や技術・技能を学習するだけではなく、未知の領域に目覚め、自分の持つ新たな可能性を発見するための学修の場である。そして、学修は、私的で個人的な興味や利益のためだけではなく、社会や歴史の発展に役立ち人類の福祉や幸福のためでもある。このような二重の役目を自覚し、実践し、結果を出すことで、大学は社会に受け入れられ育てられてきたのである。今日の教育の再生と言う名のもとで進められている大学政策は、大学が長い歴史の試練を通じて進化させてきた大学政策に大きな変更を求めている。この意味で、すべての大学にそれぞれの大学の「存在価値」をどう構築するかについての厳しい問いかけである。この「自学の存在価値論」の重要性は大学の全構成員に共有されるだろうし、しなければならない。この課題解決のためには自前の方法論や材料を用意する必要がある。成功例の直輸入や目新しい小道具の導入で解決できるほど単純な課題ではなく、自らの頭脳を総動員して初めて可能になり、改革・改善として結実するだろう。本学は、ただ今、改革・改善活動の真っ只中にいる。ここでは、小はカリキュラムの改善から、中は報酬型インターンシップの導入に見られる教育枠の拡大であり、大は学部や学科の新設や改革である。このような改革・改善活動は、教育現場の現状分析に裏打ちされた未来志向の調査研究の積み重ねによって導かれ、その蓄積が着実な改革・改善を進めるのである。このような視点から行われている研究活動の中間報告や成果の一部を纏めて発刊したものが、学術雑誌「中部大学教育研究」です。本年度はその13号をここに上梓し

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