中部大学教育研究13
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効果的にし、認知度を上げていくためには十分な専門性訓練が必要となることは間違いない。それがなければ、大学教育に興味関心を持つ学生たちのサークル活動と変わりなく、イベントを行うだけの団体と化してしまうであろう。いくつかの大学ではすでにそのような陰口をたたかれているところもあると漏れ聞く。大学や教職員が、学生視線での調査研究を依頼し、その報告を実際の改革に活かしていきたいと考えるくらいの専門性が必要なのである。学生FDスタッフの専門性訓練に関しては、土持(2010)が報告したアメリカのブリンガム・ヤング大学(BringhamYoungUniv.)とユタ・バリー大学(UtahValleyUniv.)で実践されている、訓練を受けた学生が教員に対して授業のコンサルティングを行うSCOT(StudentsConsultingOnTeaching)の取り組み28)と、それに倣って帝京大学が導入し、実施しているSCOT研修が参考になる(表5)。なお、言わずもがなSCOTは学生参画型FD(学生FD活動)を行う学生FDスタッフの範疇に入るであろう。4おわりにこれまで長文を労して学生FDスタッフの定義と学生参画型FD(学生FD活動)の位置づけを検討してきた。萌芽期を少し過ぎたばかりの学生FDスタッフとその活動である学生参画型FD(学生FD活動)に関してさまざまなバリエーションがあるのは仕方がなく、まだ標準化するには時期尚早であることは間違いない。本来ならば全国的な取り組みの動向が自然に収束していくことを待つべきであろう。しかしここで敢えて苦言を呈するように検討を行ったのは、学生FDスタッフの先人がそろそろ退陣する時期が近づいていることと、学外での広がりに反して学内での貢献度が低いことに対する批判の声が一部に高まっているからである。海外にはほとんど見られない学生参画型FD(学生FD活動)を、少しでも大学改革や授業改善に実質的にコミットできるような仕組みに変えることが、これら先人たちの努力に応える道であると信じて、失礼を顧みず執筆した次第である。註1)学生FDサミット2013夏配付資料2)「学生FDスタッフ」を指す一般的な名称は存在しないが、本稿では木野茂編著『大学を変える、学生が変える-学生FDガイドブック』の記述に沿って各大学の学生スタッフを「学生FDスタッフ」と呼ぶことにする。3)「学生参画型FD(学生FD活動)」も一般的な用語ではないが、木野の上記の本で使用されているほか、昨今多くの大学現場で用いられているため、ここではその用語を用いる。4)答申(2010.12.24)では、「FDを単なる授業改善のための研修と狭く解するのではなく、我が国の学士課程教育の改革を目的とした、教員団の職能開発として幅広く捉えることが適当である。そして何より、FDを実質化するには、教員の自主的・自律的な取組が不可欠である。教員の個人的・集団的な日常的教育改善の努力を促進・支援し、多様なアプローチを組織的に進めていく必要がある」と審議のまとめと若干文言が変わっている。5)立命館大学では2006年に学生FDスタッフが発足した。岡山大学では2000年に出された廣中レポートを契機に、一足早く2001年に学生・教職員教育改善専門委員会が発足し、2005年から学生FDに携わる全国の大学生や教職員の交流を行うi*Seeを開催している。他の大学ではおおむね2005年か―17―「学生参画型FD(学生FD活動)」の概念整理について【トレーニングの概要】トレーニングは、「①所属大学に関すること」「②高等教育に関すること」「③大学授業に関すること」「④コミュニケーションに関すること」「⑤調査・研究に関すること」の5つの領域と「インターンシップ(模擬コンサルティング)」とで構成され、トレーニング期間は6ヶ月です。回テーマ内容1オリエンテーション・SCOTとは・トレーニング受講のために・SCOTポートフォリオの説明2高等教育について知る①・日本の高等教育制度・先輩SCOTに学ぶ(帝京大学での学び)3高等教育について知る②・世界と日本の高等教育の動向・能動的な学びとは(アクティブ・ラーニング)4大学授業について知る・学習者中心のシラバスとは・観点別到達目標と授業設計5コミュニケーション・トレーニング①・情報を読み取り、まとめる力-フォトランゲージ-、-授業観察レポートの書き方-6コミュニケーション・トレーニング②柔軟に対応する力-アサーション・トレーニング-7調査・研究発表、総括・グループで選択したテーマについて、調査・研究、発表、意見交換まで学生主体で行います。また、トレーニング総括も行います。【SCOTの認定】トレーニング成果(SCOTポートフォリオ、トレーニングでの活動状況等)をもとに高等教育開発センターが認定します。認定には以下の2種類があります。①SCOTシニア(正式なSCOTとして、授業コンサルティングを担当します。SCOTトレーニングも支援者として協力します。)、②SCOTトレーニー(訓練生としてトレーニングに参加します。授業コンサルティング以外のSCOTの活動にも協力します。活動状況により、随時、SCOTシニアに認定されます。)【SCOTポートフォリオ】トレーニーは、トレーニングの成果として、SCOTポートフォリオを作成します。SCOTポートフォリオとは、トレーニングでの取組や成果について自己省察したものです。表5帝京大学高等教育開発センターにおけるSCOTトレーニングの概要(井上他、2012)29)

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