中部大学教育研究13
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その意味では学生FDスタッフが行っている活動のすべてが学生従事の概念のなかに包摂されていると見て差し支えないだろう。また、7つの原則に基づく授業方法や教育環境を、NSSEとそれをさらに授業単位に落とし込んだCLASSE(ClassroomSurveyforStudentEngagement)を通して学生に点検させる発想そのものが、学生FDスタッフの行う活動と同じ基盤を有していると考えることもできる。たとえば「しゃべり場」や学生視点で授業をよくする取組などは、まさに学生従事の理念に基づき、学生が主体的に教育改善に従事する活動と言えよう。しかしながら、これらがFDの文脈で語ることができるかは、後節で検討したい。2.4ピア・サポート・プログラムとの比較ピア・サポート・プログラムとは、当該分野の第一人者であるレイ・カー(1981)によると、学生・生徒たちに他の人を思いやることを学ばせ、その思いやりを実践させる方法の一つであり、自らも学生・生徒であるピア・サポーターが、きちんとしたスーパービジョンのもとで仲間の学生・生徒を援助する取り組みだとされている18)。おおむね国内外の大学では、報償のあるなしに関わらず、同じ学生(peer)同士が専門性を持つ教職員の指導(supervision)のもと、仲間同士で援助し、学び合う制度(プログラム)と理解されている。その背景には学生数が激増し、多様化が進む高等教育において「仲間(peer)」の影響力を利用して学生の適応を促進する意図があった(トレバー・コール、2003)19)とされる。しかしながら、ピア・サポートやピア・サポーター(peersupporter)という用語も国内外で一般名詞として定着しているとは言い難い。先述のレイ・カー(1993)によると、1993年時点でカナダ・ナショナル・ピア・ネットワーク(CanadianNationalPeerNetwork)に所属する1,200人の活動家の38%以上がピア・ヘルパー(peerhelper)という用語を用い、35%がピア・カウンセラー(peercounselor)、12%がピア・サポート・ワーカー(peersupportworker)、2%がピア・ファシリテーター(peerfacilitator)を用いていたと報告している20)。国内においてもピア・サポーターという用語が主流とはいえ、ピア・メンター(peermentor)やピア・カウンセラーなども用いられ、その活動名もピア・サポート、ピア・メンタリング、ピア・カウンセリング、ピア・ファシリテーション、ピア・エデュケーション(peereducation)などさまざまである。アメリカではピア・サポート・プログラムとして1960年代より大学の初年次教育に導入され、上級生が一年生を指導するピア・リーダーシップ・プログラム(peerleadershipprogram)(山田、2005)21)や、アカデミック・サポート・センターなどで学生のライティング支援に従事するピア・テューター(peertutor)の制度(薄井、2013)22)などが有名である。また国内においては、2000年に文部科学省から報告された「大学における学生生活の充実方策について-学生の立場に立った大学づくりを目指して-」(以降、「廣中レポート」)以降、多くの大学で通称ピア・サポーターがさまざまな業務で活動することとなった。本節では国内でもっともピア・サポート・プログラムが盛んな大学の一つである立命館大学の事例をもとに、ピア・サポーターの位置づけを見てみることにする(図1)23)。図1において「オリター・エンター」「TISA(TutorsforInternationalStudentsAssembly)」「ジュニア・アドバイザー」「ES(EducationalSupporter)」「ライブラリィ・スタッフ」「レインボー・スタッフ」「学生広報スタッフ」はそれぞれ新入生支援、留学生支援、学習支援、図書館利用支援、情報システム利用支援、広報支援を担当する立命館大学のピア・サポーターの名称である。現在、立命館大学のピア・サポーターは21種類、総勢3,000名を超える陣容を誇っており24)、その一覧は名称こそ異なれ、あたかも日本の各大学におけるピア・サポート・プログラムの俯瞰図と言っていいだろう。そして注目すべきはその位置づけで、ピア・サポーターは「業務的」で「対等的・同等的」の第四象限に含まれる活動に従事していることが分かる。つまり、ピア・サポート・プログラムは、教職員からの指導・助言(supervision)を受けながら特定の業務に従事する活動であり、自主的・自発的なボランティア組織や学生自治会の活動とは一線を画すとともに、高い専門性を持ち、自ら授業を担当できるGSI(GraduateStudentInstructor)25)などの大学院生やポスドクの授業支援活動とも異なるのである。その意味では北九州市立大学のように学生自治会が含まれていたり、岡山理科大学のようにサークル活動が含まれていたりする学生FDスタッフは、ピア・サポーターとは異なる位置づけにあると考えることができる。また木野によると、「学生FD(スタッフ)は学生自らの意思と主体性のもとにすすめられることが基本であり、大学のFD企画への動員や大学のFD活動の下請けであってはならず、また大学や教職員側から方針が与えられるのではなく、あくまで学生の視点からの活動であることを保障しなければならない」26)と述べているが、この提起は岡山大学の事例に若干の矛盾をはらみながらも、学生FDスタッフは図1において第三象限に位置すべきものだと述べていることに他ならない。その―13―「学生参画型FD(学生FD活動)」の概念整理について

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