中部大学教育研究13
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に考える力を育成する大学へ~』7)を持ち出すまでもなく、大学におけるアクティブ・ラーニングやその一形態であるピア・サポート・プログラムの実践は非常に重要であり、かつ大学教育の質的転換を図るために必要不可欠のものであると考えている。しかし、なぜこれまで教育に関わる学会や現場で普遍的に使われてきたアクティブ・ラーニングという言葉やその日本語訳として用いられる「能動的学習」という用語をあえて使用せず、「学生参画型」という言葉を使用したのか。さらにはどうして大学教育に関心を持つ一部の学生の活動とアクティブ・ラーニングやピア・サポート・プログラムを同一の学生FD活動という文脈で取り上げたのか理解に苦しむのである。本稿では最初に「学生参画型FD(学生FD活動)」の用語を使い始めた木野茂の著書に見られる事例を抽出し、どのような活動内容が見られるかをリストアップする。次いでアクティブ・ラーニング、学生関与、学生従事、ピア・サポート・プラグラムの定義に立ち戻り、どのような活動を指すのかを明確にして、本著書のなかにアクティブ・ラーニング、学生関与、学生従事の定義に含まれない活動や概念があるかどうかを検討したい。最後に、学生FDスタッフの定義を見直し、ピア・サポーターとの違いを明らかにすることを試みる。2他の用語との比較検証2.1「学生参画型FD(学生FD活動)」の事例の抽出本節では最初に木野茂の著書に含まれる学生参画型FD(学生FD活動)の事例を抽出し、どのような活動が紹介されているかを検証する(表1)。用いる著書は木野茂編著(2012)『大学を変える、学生が変える-学生FDガイドブック』ナカニシヤ出版である。事例は木野の自主講座や大阪市立大学、立命館大学における双方向授業のものと、立命館大学、岡山大学、法政大学社会学部、大阪大学共通教育、追手門学院大学、京都文教大学、愛知教育大学の学生FDスタッフの活動である。管見するところ学生参画型FD(学生FD活動)として取り上げられている活動内容は多岐に渡り、かつアクティブ・ラーニングやピア・サポート・プログラムなど多様な要素を含んでいるように見える。個々の活動と既存の用語との対比や関連性の検証は2.5節に詳述する。表1『大学を変える、学生が変える』に含まれる学生参画型FD(学生FD活動)の事例―10―沖裕貴章・節(著者)活動内容の概要第一章(木野茂)・自主講座・双方向授業(①シラバスの作成、②授業アンケートの実施、③学生教員間、学生間の質疑応答と意見交換の実施、④オフィスアワーの実施、⑤ティーチング・ポートフォリオの作成)第二章(木野茂)立命館大学の事例・学生とともに作る授業(自主講座、双方向授業)・グループ研究を中心の学生主体型授業第三章(木野茂)立命館大学の「学生FDスタッフ」:教育開発推進機構の公認組織・ピア・エデュケーション・学生FDスタッフ(①学生FDスタッフが紹介する授業実践集の編集・刊行、②「しゃべり場」の企画・実施、③学生FDサミットの開催)第四章(木野茂)立命館大学および他大学の事例・学生FDサミット・学生FD活動(①「しゃべり場」、②学生視点で授業をよくする取り組み、③学生同士の学習支援活動、④学生生活を充実させるための活動、⑤学生FDの周知度を高めるための広報活動)第五章岡山大学の「学生・教職員教育改善専門委員会」:教育開発センターFD部門の公式委員会①授業改善WG-授業アンケートやシラバスの改善、学生発案型授業の創作②システム改善WG-桃太郎フォーラムの開催③学生交流WG-教育改善学生交流i*Seeの開催第六章法政大学社会学部の「社学fes運営委員会」:イベントごとのテンポラリー・スタッフ①ゼミ紹介冊子作成、学部研究発表会の運営等②受験生向け広報活動③学生授業アシスタント-大規模授業アシスタント、学習サポーター第七章大阪大学の「パンキョー革命推進チーム」:大学教育実践センターの公認組織①学生・教職員懇談会の実施②「パンキョー革命提議書」の作成・刊行)③新入生ガイダンス「キャンパスライフ・デザイン」の開催④イベント「キャリア・ケーススタディ」の開催⑤イベント「しゃべってみない会」の開催⑥プロジェクト「ワニゼミ」の開催⑦学生・職員交流イベントの開催⑧阪大1000人インタビュー⑨学外交流-学生FDサミットへの参加第八章追手門学院大学の「学生FDスタッフ」:教育研究所の公認組織①教職員と学生の意見交換の場作り②意欲的な授業を展開する教員への取材③「学生FDの輪」の企画・運営④他大学交流-学生FDサミットへの参加⑤追大FD合宿⑥学び論C-入学予定の高校生対象の大学入門授業への参加⑦授業に関する「全学アンケート調査」の実施⑧「学生発案型授業」実現に向けた取り組み⑨BestTeacherAwardの実施⑩「追大教員図鑑」の刊行第九章京都文教大学の「FSDproject」:公認組織①「しゃべり場」の開催②大学紹介冊子「BunkyoMenu」の作成③FSDマガジンの作成④他大学交流-学生FDサミットへの参加⑤「国際交流しゃべり場」の開催⑥教員・学生・職員による必修科目「京都文教入門」の実施

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