中部大学教育研究13
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か教育一般に触れている諸章の中でも、教育の自由、専門職者としての教師の自由に関して実に多くのことがふれられているから、それをすべてあげれば膨大な量に上る。上には、とりあえず大学と高等教育機関およびその教員に関するものだけを挙げてみた。一覧してわかるのは、第一に大学・高等教育機関の「機関としての自治・独立」とその構成員たる教職員特に教員の「身分的保障と志気」との二つをはっきりと区分して強調していること、第二に、教員の「研究の自由」と公平性の保障とに対する外部からの圧迫や拘束を否定し、監視を禁止していることである。使節団は、第一の原則のコロラリーとして、官学と私学の位置が対等であること、私学にももちろん自由が保障されるべきことを確認し、第二点のコロラリーとしては大学・学校を官僚統制から解放すべしと強調していた。社会的ニーズへの注目の必要先にも触れたように、報告書は「大学は様々な形で社会的なニーズにこたえるべきである」という論点に触れている。ここでは「学者の占める高度の学識の世界と、学識程度の不明な幾百万の日本の民衆との間には、あまりにも広い距りがあった」(日本の高等教育の過去における制限)といった基本原理については立ち入らず、大学が応えるべき具体的なニーズについて触れた提言だけを大意に即して摘記すれば、次のようになる。有能な青年男女を訓練して新旧両様の職業に対して技術的に有能ならしめるように訓練すること。大学は美術、文芸、宗教等文化的側面の開放、歴史の書き直し、文学の開設等のリーダーシップをとり、さらに社会科学、自然科学、人文科学等の振興の先頭に立つこと。日本では、今、手芸業、軽工業、多角的農業、商業経済を発達させ、商品および勤労の国際交流の拡大を図ることが求められている。これに対し、大学は、技術学・経済学上の研究さらには社会研究を通じて対応すべきであること。すべての技術教育・職業教育には再吟味と調整が加えられなければならないこと。特に身体的および社会的に人類の福利に関係を有する活動(たとえば医療看護及び社会事業等)の教育に対しては特に再吟味や調整が必要であり、将来経済状態が許されるようになったときには「新聞、雑誌業、労務関係、学校管理等」の専門教育にも関心を持つべきであり、今後需要が増える教員養成に関してはもちろん努力すべきこと。医学教育には特別の配慮が必要である。有能な教授と適切な施設を欠く医学校は水準を向上させるか、廃校処分にすべきであること。大学は公開講座を通じて国民との接触を図るよう配慮すべきこと。これらのうち、やは、日本の大学関係者が伝統的に承認してきた大学本質観からしても、繰り返されるまでもない提言であった。しかし以下になると、それ以前の大学論の中で必ずしも明示的に唱えられてきたものではなかった。特に今日的に言えばの福祉的な諸活動への大学の教育的貢献、医学教育の根本的刷新、新聞研究その他の現代的諸活動への教育上の配慮等は、最も画期的な提言であった。1950(昭和25)年9月、アメリカ政府は、GHQの要請のもとに第二次教育使節団を派遣した。第一次使節団から5年後の教育改革の進展に関して調査したこの使節団は、報告書の中で、初等・中等教育等の他の諸項目に比べて、特に大きなスペースを「高等教育」に割いている。しかしその内容は、「日本はどれだけの高等教育機関を必要としているか」「日本の高等教育機関は、どのようにすればもっとも有効に組織され運営されうるか」といった量的問題や管理的側面にかかわる論点であり、社会的ニーズと大学の本質・責務との関係といった論題はほとんど触れられていない。人材供給を通じての国家・社会への貢献をより細心に行え、というのが勧告のすべてであった。関係個所だけを引用しておこう。「日本の高等教育の究極の性格は、国家の諸目的を遂行するためにどのような高等教育を受けた人々が必要であるかということによって決定されなければならない」。「大学教育を受けた人々を、現在の数よりはるかに多数を必要としている他の専門職業もたくさんある」。「生き残るために、技術的、芸術的生産物を、大量に輸出しなければならない国が必要なだけ、じゅうぶんな数の技術家や工芸図案家や美術家を、日本は教育しているか。幾百万の人々の、身体的、道徳的、精神的要求が示すような、じゅうぶんな数の医者や看護婦や社会事業家や宗教奉仕者を、日本は教育しているか。日本の将来の実業指導者や政治指導者は、今日ほど大学に在学する必要があるか。日本には、高等教育を必要とする将来の詩人・小説家・劇作家及び作曲家がいるか。日本には、常に偉大を夢見る社会において重要な役割を果たすために、適正な教育を受けたじゅうぶんな数の教師がいるか」。1950年秋は、まだ新制四年制大学発足後2年しかたっ―3―近代日本において大学の本質はどのように考えられてきたか

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