中部大学教育研究13
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指導者と競技スポーツの指導者に大きく分けられるが、本論では特に分類せずに論じている。これは、スポーツ指導を行う目的の違いこそあれ、スポーツ指導者として望まれる(望ましい)像(図1、表2)はほとんど変わらないと考えるためである。2「救急救命士」と「スポーツ指導者」に共通して求められる素養2.1医学的知識救急救命士は、救急現場で傷病者を観察・評価し必要があれば救急救命処置(酸素投与、胸骨圧迫心臓マッサージ、人工呼吸など)を行う。重症事案では、医師の指示・指導・助言に基づいて傷病者に対応(気管挿管、薬剤投与など)しなければならない。このため、医学的知識は必要不可欠である。一方、スポーツ指導者の医学的知識については、(財)日本体育協会編集の「公認スポーツ指導者養成テキスト共通科目ⅠとⅢ」7,8)の中に「スポーツ指導者に必要な医学的知識」という章が割かれており、スポーツ活動中に多い内科系疾患や外科系疾患や精神障害の種類と、それらの予防・予知法、救急処置法(心肺蘇生法と外科的応急処置)の仕方が記載されている。平成23年中の救急自動車による事故種別搬送人員は合計5,182,729人であり、そのうち運動競技に起因した救急搬送人員は35,998人と6番目に高い数字である9)。もし心肺停止が起きた場合、救急車が到着するまでの間に傷病者の近くに居る一般市民によって応急手当が行われると、傷病者の生存率や社会復帰率が高まることから9)、スポーツ現場の指導者は万一に備えて心肺蘇生法を熟知しておくことが非常に重要である。このような例から、救急救命士とスポーツ指導者は共通した医学的知識が必要であると言える。2.2体力救急活動には気力を含んだ体力が必要であると言われている10)。山で事故が起こった場合、救急用の資器材を背負って山道を何十分も歩くこともあるようである11)。体力には、「筋力」「持久力」などのエネルギー系の体力、「平衡性」「柔軟性」「協調性」などのサイバネティックス系の体力、「意志」「判断」「意欲」「身体的・精神的ストレスに対する抵抗力」など様々な種類がある。山での救急活動に必要な体力は、荷物を持ちながら長い距離を進むための筋力や持久力、そして意志などであろう。その他にも、救急現場では、周辺状況や傷病者の状況を評価し、適切な対応の判断も必要なことから12)、判断力も求められよう。一方、指導者に必要な体力は何であろうか。内閣府の「体力・スポーツに関する世論調査(H21年度)」の中には、望まれるスポーツ指導者の条件について9つの記載がある13)(図1)。また、(財)日本体育協会の指導者育成専門委員会は、望ましい指導者の条件10個を提示している14)(表2)。全19個の条件について、アルファベットの通し順(a~s)を付した。望まれる(望ましい)指導者の条件の中で、身体的要素の体力が必要であるとの直接的な記載は無いが、例えば、cの「年間を通して定期的に指導ができる人」は、身体的ストレスに対する抵抗力や免疫力などの身体的要素-防衛体力が高く、休まずに指導できる人と言うことができよう。一方、条件f、sは、積極的な意志や意欲が問われる内容であると言える。以上から、救急救命士もスポーツ指導者も共通して、体力の身体的要素と精神的要素の両方が必要であると考えられる。2.3コミュニケーションスキルスポーツ指導者と指導を受ける者(被指導者)との間にはコミュニケーションが発生する。コミュニケーションとは成員相互の情報の伝達を意味する。表2のjの記載から、コミュニケーションを通して、被指導者の気持ちや態度を変容させていくことがスポーツ指導者に求められる素養であると言うことができる。丹羽と安森は、中学生を対象とした調査研究の中で、信憑性の高い指導者が説得する場合に、被指導者の態度変容が最も大きくなることを報告している15)。この研究では、信憑性の高いリーダーの条件として、技術、指導力、明朗活発な性格、統率力などを持ち合わせていることが挙げられている。また、(財)日本体育協会公認スポーツ指導者養成テキストⅡの中には、指導者に必要なコミュニケーションスキルとは、①「聞く」②「説明する」③「討論する」④「応答する」であり、―92―尾方寿好表2(財)日本体育協会指導者育成専門委員会が唱える望ましいスポーツ指導者の条件

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