中部大学教育研究13
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1はじめに「螢雪時代2012年10月号」1)および「リクナビ進学」2)によると、救急救命士養成コースを持つ日本の高等教育機関は35校あり、このうち大学が11校、専門学校が24校である。全ての専門学校は学科名に「救急救命」が入っているが、大学の場合では杏林大学の1校のみである。一方、4校の大学は学科名に「スポーツ」を含んでおり、救急救命士とスポーツ指導者(保健体育教員を含む)の養成がセットになっている。表1は、救急救命士養成を目的としたスポーツ系学科がある大学4校のホームページ3-6)より、救急救命士とスポーツ指導者の両方に関連すると思われる文章を抜粋したものである。国士舘大学のアドミッションポリシーには、「救急救命士としてスポーツ施設で活躍したい人」や、「救急救命士資格を所持した保健体育教諭として活躍したい人」を求めると記されている。これは、スポーツ指導者の職務内容と救急救命士の職務内容に共通点および接点があることを示唆している。中部大学では、「医学的根拠に基づいた適切な健康スポーツによる指導者の育成を目指すこと」と、「救急医学の知識を生かし救急救命士の育成を目指すこと」の2つがカリキュラムポリシーになっている。スポーツ指導者と救急救命士が、ともに医学的知識が必要な職種であると述べている。一方、帝京大学や帝京平成大学のホームページには、救急救命士には「体力」や「協調性」が必要であることが記されている。また、2003年の星陵会館において開催された総合ディスカッション「救急救命士の現況と将来を見据えた救急救命士教育のあり方」において、国士舘大学体育学部スポーツ医科学科教授の田中秀治氏は、救急救命士育成の教育において「気力・体力」「コミュニケーションスキル」「倫理観」を育てることの必要性を述べている。これら救急救命士に必要とされる素養は、望まれる(望ましい)指導者の条件にも当てはまるものと考えられる(図1、表2)。以上から、救急救命士とスポーツ指導者には「医学的知識」「体力」「コミュニケーションスキル」「倫理観」「協調性」が共通して必要な素養であり、「職務内容」において共通点と接点を有していると考えられる。以下では、これら6つの点について考察する。また、この考察を通して、救急救命士とスポーツ指導者の養成がセットになった学科における教育のあり方を提言したい。なお、本論では、消防官である「救急隊員」を「救急救命士」と同列に扱う。なぜならば現状では、救急救命士の仕事が消防の救急隊員にほぼ限定されているためである。またスポーツ指導者には健康スポーツの―91―中部大学教育研究№13(2013)91-96《提言》スポーツ指導者と救急救命士の共通点と接点尾方寿好表1救急救命士養成カリキュラムを持つスポーツ系学科の考え方図1望まれるスポーツ指導者(複数回答)「H21体力・スポーツに関する世論調査」(内閣府)

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