中部大学教育研究12
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1はじめに近年、大学教育、とくに初年次教育において「自校教育」が注目されている。「自校教育」とは、寺﨑(2009)によると、「自分が入っている大学自体のことをよく知らない。いわば偶然に入学し、たまたま教室に座っている」学生や、「実は他に行きたかった」という学生たち、つまり、大学への帰属感が欠如した学生たちが多い中で、大学のアイデンティティを確認・共有するための教育だという。さらに具体的に、大川(2011)は、「自校教育」を「大学の理念、目的、組織、沿革、人物、教育・研究の現況など、自校(自学)に関わる特性を教育題材として実施する一連の教育・学習活動」と定義している。本学では、全学共通の初年次教育科目として、「スタートアップセミナー」が開講されている。その中の共通項目(大学として全学科の新入生に共通して修得させるべき内容)には、①「大学の基本理念、教育上の使命、教育目的」、②「大学生活のライフプランとキャリアデザイン」、③「大学における学びのスキル」、④「社会生活の基礎」の4項目があげられている。2012年9月19日の本学「初年次教育担当者会」で配布された資料「スタートアップセミナー共通項目の授業内容に関する指針」では、このうち①「大学の基本理念、教育上の使命、教育目的」の項目において「授業内容」として次のように書かれている。所属する学科・学部・大学について理解し、その歴史・成り立ち・基本理念・特色を学ぶことで、自分の「居場所」に対する理解・安心感(肯定感)・帰属感を醸成する(自校教育)中部大学初年次教育担当者会2012年9月19日配付資料「スタートアップセミナー共通項目の授業内容における指針」以上のような、全国の大学における、また、本学における「自校教育」の重要性を前提として、以下の考察を行う。2研究目的大川(2011)は、全国の国公私立全大学に対する調査を行い、その中で「自校教育」の授業でどのような教材が用いられているかを調べている。最も多く使われている教材は、「授業担当教員作成の資料やレジュメ」(「自校教育」193授業中126授業)であった。これ以外に、「『自校教育』用に作成した冊子・パンフレット」(同26授業)、「大学(学部)沿革史(書籍)」(同21授業)、「自学に関わる人物に関する書籍・冊子(伝記・語録など)」(同21授業)など9つの項目が挙げられている。しかし、その中に映像教材、つまり、大学に関するビデオ・DVDはあげられていない。「その他」(193授業中22授業)の中に含まれている可能性はあるものの、独立した選択肢としてはあげられていない。「自校教育」の研究者にも、映像教材(大学に関するビデオ・DVD)は、重視されていないのである。このように、自校教育の研究者からは軽視されがちな映像教材であるが、学生たちにとっては、「資料やレジュメ」「冊子・パンフレット」「書籍」などと同様に、もしくはそれ以上の教育上の効果があるのではないだろうか。筆者は、中部大学において、「映像を読む/映像の世界」という全学共通教育科目を担当している。2012年度前期の第3回目授業において、たまたま授業中の息抜きとして、ある深夜バラエティー番組の1シーンを見せた。本学を2012年3月に卒業した男性が、アシスタントディレクターとして、画面に2分ほど映る姿である。この授業で学生たちが書いた「感想・質問カード」には、その映像について多くの感想が寄せられた。例えば、「まさか、いつも見ている番組に中部大学の先輩が出ているとは思わなかった。すごいと思った」(経営情報学部、2年生、男性)、「自分たちの先輩がテレビ業界で働いていて驚きました」(生命健康科学部、1年生、男性)、「この先輩がどのような大学生活をおくっていたのか、もっと知りたい」(生命健康科学部、1年生、女性)、「先輩が頑張っている姿を見て、僕も頑張ろうと思いました」(現代教育学部、2年生、男性)などである。このことから、自校についてのビデオ・DVD、とくに、テレビ番組・テレビニュースの映像を視聴することが、学生たちにとって、自校に関する特性を認識し、自校についてのアイデンティティを確認・共有し、帰属感を高めることにつながるのではないかという着想に至ったのである。―77―中部大学教育研究№12(2012)77-80自校に関するテレビ映像視聴の「自校教育」への効果近藤尚

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