中部大学教育研究12
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1はじめに新教育改革により平成23年度にスキル科目「日本語スキルA」が新設された。この科目は、大学生に必要な日本語の運用能力の基礎を学ぶ科目として全学的な要請の下で設置され、大学1年生向けに開講されるものである。現在は春学期に工・経営情報・応用生物学部、秋学期に国際関係・人文・生命健康・現代教育学部に開講され、春学期の全学部、国際関係学部国際関係学科・国際文化学科、人文学部コミュニケーション学科の学生には必修科目となっている。必修科目となっていない学生にも履修の機会は保障されており、年間の履修学生数は約2,200名。1クラス約40名規模での開講であり、開講数は約50クラスである。「日本語スキルA」は現代教育学部共通教育科が担当し、専任教員2名、兼担教員7名、非常勤講師6名で授業を運営している。この科目が扱う内容については、設置の前年度にワーキンググループ(以下WGとする)1)によって討議が重ねられた。各学部へのヒアリングも踏まえた結果、学部学科によらず、全ての大学生が大学生活に必要な日本語スキルの修得を目指すこととした。「日本語スキルA」の「カリキュラムにおける科目の位置づけ」は以下のようなものである。全学共通教育科目の「スキル科目」に属する科目である。中部大学の基本理念・教育目的にもとづく大学教育を受けるために、学部学科に共通して必要となる学びのスキルの習得を目的とする。この科目では特に、学部や専門分野にかかわりなく、日本語に関する基礎的な知識・素養を身に付け、大学生の基礎スキルとしての日本語運用能力の向上を目指す。すべての学部学科の教育目的につながる基礎的な科目の一つである。これに基づき、全てのクラスにおいてほぼ同じ内容と進度で展開することを確認した。また、「日本語検定」(特定非営利活動法人日本語検定委員会主催)の受検を推奨し、日本語検定3級に合格できる力を付けるという具体的な目標を掲げることとした。本稿は、このような経緯で立ち上げられた「日本語スキルA」の1年目と2年目の実践について報告するものである。なお、「日本語スキルB」は2011年度以降入学の2年生以上を対象に平成24年度から開講され、「日本語スキルA」より高度な内容を扱うものであるので、本稿では言及しない。2「日本語スキルA」の授業2.13つの柱とそれぞれの目標「日本語スキルA」は、①日本語の基礎知識、②書くこと、③話すこと、以上3つを柱とし、その基本を身に付けさせることを目的としている。半期2単位の授業としては欲張った目的であるととらえられるかもしれないが、WGにおいては「広く、浅く」学ぶことが出発点におけるコンセンサスであった。半期の授業だけでは十分な日本語の運用能力が身に付かないことは自明のことであり、学生にそれを身に付けさせるには、大学4年間にわたって、学生に関わるあらゆる教員がそれぞれの立場で努力を行わなくてはならない。その土台作りを「日本語スキルA」で行うということになる。これについては、1年目春学期後、授業担当教員から、内容を盛り込み過ぎではないかとの意見が出された。しかし、学生からは3つの柱のどれも重要なものだという声が多く、それぞれへの学習の要望があることも分かったため、3つの柱の指導を堅持することとした。上記の①~③については、具体的目標を以下のように設定した。①「日本語の基礎知識」敬語や文法の語学的な基礎を理解し、日本語を誤りなく使用できること②「書くこと」わかりやすい文章を書く際の注意点を理解し、最終的に約800字の小論文を書くこと③「話すこと」わかりやすい話し方を工夫し、人前に出てスピーチの経験をすること―71―中部大学教育研究№12(2012)71-75「日本語スキルA」1年目・2年目の実践報告-日本語運用力の向上をめざして-寺井一・生田裕子

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