中部大学教育研究12
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1問題と目的1.1初年次教育概観従来から、大学で何をどう学ぶかについては、大学を目指す若者を対象とした多くの指南書があり(たとえば、隅谷、1981)、それらは、高等学校よりはるかに自由度の高い学問の府に入門する若者、新入生たちへの道案内の役割を果たしてきた。しかし高等教育機関への進学率は急速に上昇しており、文部科学省の学校基本調査によれば、2007年度の高等教育機関への進学率は55.3%になり、学生の実態や大学に対するニーズが多様化してきた。そこで大学では、新入生に対するよりきめ細かな大学への導入教育や学生生活への支援の必要性が自覚され、様々な取組みが実施されるようになってきた(高松、2008)。山田(2012)によれば、初年次教育の実施率は2001年の調査では80.9%、2007年には97.0%となり、内容や方法に課題はあるものの、今日ではほとんどの大学が実施するようになっている。これらは、初期には導入教育や一年次教育ともよばれてきたが、2000年代の後半には初年次教育という概念が定着した。たとえば中央教育審議会の2008年答申では初年次教育とは、「一般に高等学校から大学への円滑な移行を図り、学習および人格的成長に向け、大学での学問的・社会的な諸経験を成功させるべく、主に新入生を対象に総合的に作られた教育プログラム」と明記されている(山田、2012、類似のものに濱名・川嶋、2006)。具体的には、「レポート、論文などの文章技法」「コンピュータを用いた情報処理や通信の基礎技術」「プレゼンテーションやディスカッションなどの口頭発表の技法」「学問や大学教育全般の動機づけ」「論理的思考や問題発見、解決能力の向上」「図書館利用や文献検索の方法」が位置づけられている。また自校教育などを含む考え方もある。実際には大学によって、初年次教育の内容や実施スタイルは異なっている。我が国の私立大学の初年次教育の動向調査(杉谷、2006)によると、新入生の学力不足や外国語などの学力を補う補習型や入学後のスタディスキルを重視するスキル型、情報リテラシーを重視する型、学問や大学教育への動機づけや適応を目指すオリエンテーション型、大学教育の基礎・概論型やそれらの混合型などがある。また実施方法にも多くの課題(指導体制から教員の熱意まで)がある。そもそも初年次教育研究という専門分野はまだ発展途上にあり、その分野に精通しているとは言えない多くの教員がこれを担当する必要があるところに、初年次教育の難しさがあるといえそうである。1.2本学の初年次教育の目標本学では、2010年より初年次教育科目の「核」として「スタートアップセミナー」という科目が位置づけられた。これは全学部全学科の新入生に対する必修科目である。本学の初年次教育としての「スタートアップセミナー」の意図するところは、そこで扱われる、大学の建学の精神、教育目的、大学での学び方などについてのさまざまな知識や経験が、学習意欲や大学生活の適応性を高め、他の科目への導入となることである。そのため「スタートアップセミナー」は、すべての学部学科の教育目的につながる基礎的な科目とされ、共通教材も用意されている(中部大学全学共通教育部初年次教育科、2012)。一方シラバス作成や運用は、一定の共通項を含むことを条件に各学科に任されている。1.3児童教育学科の初年次教育の目標児童教育学科は、教育学関連科目等の総合的な学びをとおして社会に貢献する人間を育てることを目的としており、学科創設以来その特色に沿って初年次教育を実施し、一定の役割を果たしてきた(中部大学現代教育学部スカイアップ委員会、2009、2010、2011、2012)。過去4年間の児童教育学科の初年次教育の特徴は、所属学部のもう一つの学科である幼児教育学科の教員と協働し、合議による独自のプログラムを用いて始まったことである。この時期には大学の初年次教育科目が始まっていなかったため、学部独自に「スカイアップ・プログラム」とした。そして3年目から大学の初年次教育科目名である「スタートアップセミナー」が始まり、児童教育学科もそれにならった。最初の2年間の児童教育学科の初年次教育についてはその実施内容の検討や学生、教員の授業評価に関する調査も並行して―59―中部大学教育研究№12(2012)59-66「スタートアップセミナー」を学生はどう受け止めたか-2012年度の児童教育学科の試み-吉田直子・古市真智子・味岡ゆい・長尾寛子

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