中部大学教育研究12
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1はじめに一般的に、健常者の障がい者に対する意識や態度は否定的であり偏見を抱いていると考えられているが、障がい者に対する意識や態度が肯定的なものへと変化するためには、情報の提示のみならず、直接的な接触の機会が効果的であるとされている(川間,1996;山内,1996;齋藤,2008)。障がい者スポーツの機会の増大という視点から松本・田引(2009)は、パラリンピックやスペシャルオリンピックスなどが開催される一方で、実際に地域における障がい者スポーツはサポート体制が不十分であると指摘している。地域における障がい者スポーツ振興は、障がい者自身が社会参加の一歩を踏み出す場の創出と、共に暮らす地域の人々がありのままの実物大の障がい者に接して触れ合える場であり、支えるスポーツ活動への参加によって、障がい者を理解・受容する好機とすることができるとしている。今回、中部大学において障がい者スポーツイベント「心をつなごう!スポ・レクチャレンジ」を開催した。本イベントは、愛知県障がい者スポーツ指導者協議会の主催で行われたものであり、本学での開催という事もあり、本学学生がボランティアスタッフとしてイベントの運営を担った。本イベントでは、障がい者の「嬉しい・楽しい・もっとやりたい・みんなで一緒に」など、これらを皆が共に感じながら時を過ごすことを目指して行われた。事前準備や当日の運営など、参加学生が主体的に進めるかたちで行った。学生たちは運営を担うことにより、自分たちの思いをイベントに込めることができる。しかし、一方でイベント終了まで安全面を含めた運営に社会的責任を負うこととなる。現在の大学には、1単位45時間の学修時間の保証、学生の問題発見・解決能力を育成できる授業開発、結果としての「学士力」「社会人基礎力」などが求められている。しかし、それらはキャンパス内の机に向かった学習だけでは育成が難しいのではないかと考える。それは、むしろキャンパス外でのボランティア活動、インターシップなど、これまで多くの場合に正課外とされてきた活動の中に可能性があるのではないかと考え、その現実的効用を知りたいと考えた。そこで今回は、障がい者スポーツに関った学生の意識の変化とコミュニケーション能力への影響を調査した。特に、コミュニケーションを積極的に行うことができるかは、コミュニケーションに対する意欲と対象を理解しようと思う気持ちが重要であると考えられる。普段接する機会の少ない障がいのある人とスポーツイベントを通してコミュニケーションを図ることによって、積極的なコミュニケーションの意欲が向上するのかを検証する。さらに、本検討を基に大学教育とボランティア活動の関係について、この活動が大学での学習とどのように繋がったか、大学での学習が現実に役に立っているかなど、学生の成長への影響を明らかにすることへの一歩となることを期待する。2方法2.1調査対象者2010年の12月に開催された、障がい者スポーツに関する企画であるスポレクチャレンジに学生スタッフとして参加した5学部の34名の学生であった。事前調査の回答者は30名、事後調査の回答者は34名であり、事前・事後の調査において不備があった者を除き、29名(男性20名、女性9名)を有効回答(有効回答率88.2%)として分析を行った(1年生11名、2年生7名、3年生9名、4年生2名)。なお、本調査の分析に際しては、調査対象者が少数であるため、分析の信頼性を損なわないよう学部など属性の違いによる分析は行わず、一つの集団として事前と事後による分析を行った。2.2調査手続き調査は企画の前後2回実施した。事前調査は、事前に打ち合わせガイダンスを行った際に、調査の概要、記入方法等について説明を行い、一斉法により実施し、その場で回収した。事後調査は、企画の片づけ終了後に事前調査と同様に調査を実施した。倫理的配慮として、調査への参加は自由意思であり、参加を拒否したことによって不利益や成績等への影響は生じないことを口頭で説明した。―55―中部大学教育研究№12(2012)55-58障がい者スポーツイベントの学生への教育的効果-障がい者に対するイメージの変化及びコミュニケーション能力への影響-西垣景太・上田ゆみ子・藤丸郁代・伊藤守弘

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