中部大学教育研究12
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を参照。http://sankei.jp.msn.com/economy/news/120730/biz12073014090006-n1.htm)。本学科の学生たちも、政治や経済、社会や文化といった自らの専門とする学問分野で培われた知識や問題解決能力や、自らの熱意や努力、所属するゼミの担当教員のサポートの甲斐あって、希望する企業から採用内定を得ることができたのは言うまでもない。拙速な関連づけが意味を持たないことは承知の上ではあるが、異なる文化や社会に生きる人びとに興味を持ち、それに対して積極的に働きかけを行う姿勢や能力は、本学科においては中国語を習得することによっても身につけられたものであると、中国語教育を担当する教員としては信じたいものである。4.3本学科の中国語教育システムの問題点本学科の中国語教育システムを検証する中で、これまでの私たちの実践では対処ができなかった、困難であった点についても考察する必要があろう。全力を傾け、あらゆる努力をなしてきたつもりであったが、私たちには成し遂げられなかった事がいくつかある。まず、本学科の教育システムの中で、中国語を学び身につけることに困難を覚えた学生(学修困難者)への対処が挙げられよう。前述の通り、本学科は1年次春学期から3年次秋学期にかけて、中国語コミュニケーション科目が1週間に6コマ設定されている。つまり、月曜日から金曜日まで毎日中国語の授業を受けることになる(曜日によっては一日で2コマの中国語の授業を受ける日まであることになる)。また、時間割編成の効率もあり、月曜日から木曜日は、1年生と3年生の中国語の授業を1-2時限目に、2年生の中国語の授業を3-4限目にそれぞれ固定して設定している。このことが、学習意欲とは別に、早朝の起床を苦手とする学生にとっては、中国語を学び続けることへの大きな障害となっているようだ。「早寝早起きの規則正しい生活を送るべき」という「指導」も一般的な意味を持つが、学生たちにも斟酌すべきそれぞれの事情があり、怠惰では片付けられない場合も見られた。一日遅刻してしまうと、翌日以降、教室に足を踏み入れるのを極端に不安に思う学生もいた。一日の欠席や遅刻が翌日の欠席や遅刻を生むような悪循環に陥って単位の取得ができなかった(できないでいる)学生もいた。そのような学生に対し、授業に参加することの心理的な障害が少なくなるよう声をかけ、学生の話に耳を傾け、状況を理解するようにすべての教員が努めていたものの、欠席した授業の内容をキャッチアップできないまま期末試験を迎えた場合が多かったように思われる。また、中国語コミュニケーション科目の授業時間が多いことは、学修困難者のみに影響を及ぼしたのではないことも指摘しておきたい。「よくできる」「まじめな」学生にも気になる事象を目にすることが時々あった。中国語コミュニケーション科目の教育カリキュラム全体に占める割合が大きいことは前述の通りであるが、そのことは、特に本学科に入学したての学生たちにとって、「中国語を学ぶこと」=「大学で学ぶこと」という錯覚を生じさせてしまう。「よくできる」「まじめな」学生は、「よくできる」「まじめな」ゆえに入学後の中国語の学習に没頭してしまう。そんな彼らが中国語の学習で達成感を覚えたとき、あるいは何事かの目的を達成したときがその危機の始まりである。外国語の学習はある種の暗号解読に似ている側面がある。検定試験などの「他流試合」で自らの能力が対外的に認知され、暗号解読のスキルを身につけた瞬間、達成感を覚えて「燃え尽き」てしまい、ひどい場合には継続した学習意欲も、他文化や他言語で生きる人びとと実際に意思疎通しようという意欲も失せてしまうことがある。そうなると、中国を理解しようとする関心も薄くなり、中国語はある程度できるものの、中国語が話される地域には興味が湧かないという状況に陥ってしまう。これについては、私たち教員が「暗号解読術」ではない外国語教育を常に心がけることが求められるのであろう(この問題については『ANTENNA』No.101、2010年12月でも触れた)。さいごに、中国語既習者、あるいは中国系の中国語に堪能な者への対処は、学科開設以来、解決しきれないでいる問題である。拙稿(『中部大学研究』No.10、2010年)でも触れてはいるが、「特別クラス」を設けることでそのような学生たちにある程度は対処できたのは事実である。しかしながら、英語などそのほかの外国語、場合によっては日本語の授業を履修させるなどして、中国語コミュニケーション科目の単位に読み替えができるような選択ができるよう、教育システムの制度面からの手当が、さまざまな原因により現在に至るまでできていないことは、やはり問題であると言わざるを得ないだろう。4.4まとめあるべき本学科の中国語教育システムとはどのようなものであろうか。数点提言をすることで本項のまとめにしたい。問題点を含みつつも本学科の中国語教育システムはすでに一定の成果を上げている。中国語の検定試験の取得人数とその内容からも、本学科の教育の特色である「中国語の高度で実際的なコミュニケーション能力」を身につけることには成功していると言えよう。ただ、教育カリキュラム全体に占める割合は高く、このような結果と投入する教員の人数や教育に割かれる時間と―49―中国語中国関係学科における中国語教育システムの確立と教育効果の可視化にむけての取り組み

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