中部大学教育研究12
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があれば、さらに理解しやすくなる。「中国語を用いて情報を得る」作業からは、逆に「中国のことを知っていると、早く読み取れる」という点も示される。授業では、『図説中国』を基本的には全訳させているが、その際の参考資料として日本語で中国の紹介がされている『中国』(中国・外文出版社)を学生に渡している。これは翻訳の際に参考となるとともに、「自分の語学力だけではなく、参考資料を用いることで理解がより進む」ということを学生に伝えるために行っている。どの語学の授業でも学生に「全訳」を指示すると、とりあえず辞書で冒頭に出た訳語のみをつないで文章を作ろうとする学生が現れる。しかし実際のところ、翻訳をする際には、原文の内容を予測するとか、何らかの資料を傍らに置くなどして大筋を押さえながら翻訳を進めるのが効率的であるだろう。このように、本学科の大多数の学生は、『図説中国』の大部分を翻訳するという体験をしている。本年度、中国政府による中国能力試験であるHSK5級(上級レベル、最上級は6級)に3年春という早い時期に合格した学生の一人は、合格の理由の一つをこの授業の長文読解であるとしている。中国語の資格試験の上級レベルにおいては、長文の読解が課せられるケースが多いが、学生はなかなか「外国語の長文」を読みなれておらず、苦手にする傾向がある。これは本来の目的にはなかったものであるが、このような効果も報告されている。5「演習A・B」、「卒業研究」における「中国研究」の方向性本学科のカリキュラムでは、3・4年生にいずれも演習科目があり、4年生の卒業研究においては、卒業論文を作成・提出する。国際関係学部の他の学科においても同様のカリキュラムとなっている。このような構造になっている理由の一つは、ディシプリンを超えた講義科目と、複数の語学科目がある中で、学生が各自でこれらの学習内容を選択しながら、高学年の演習や卒業研究で、学んだものを総合するというような方向性があるためであると考える。本学科の高学年の演習科目においては、担当者によっても差があるが、基本的に「中国ビジネス研究」など、演習で扱うテーマや方針、あるいは分野を決めた上で、「中国研究」を行っている。ある意味では、ここまでに身につけた中国語能力を活かして資料を読解しながら、各自のテーマを持って卒業研究を行い、卒業論文を作成するという意味付けがある。10月に実施した卒業論文の中間発表においても、「日中の結婚式の流れと特徴」「赤・紅・朱―中国と日本の「あか」への意識比較研究」「上海に進出する日本企業」などのテーマがあった。中国に関するテーマを持ち、人文科学的、あるいは社会科学的アプローチで卒業研究を進めているということである。また「中国語の発音教育に関する音声学研究」で発表した4年生もいるが、中国社会の研究ではないものの、「中国語への翻訳」等ではなく、中国語音声学という分析視点をもった研究である。この点は、外国語だけをする学部ではない国際関係学部に属している本学科の特徴であるともいえるだろう。なお、3年次の演習A・Bでは、卒業研究に結び付けるべく、ゼミ単位の海外研修や調査実習を活発に行ってきている。ほとんどのゼミで、研究テーマに合わせた研修を実施している。たとえば中国ビジネスをテーマとしたゼミでは、上海において夏季休暇に日本の中国進出に対する企業インタビューを実施している。また筆者が担当する東アジアの文化・交流ゼミにおいては、韓国、台湾への海外研修に加え、日本国内の研究も実施している。例えば台湾からのツアー客が多く訪れている岐阜県高山市でのインバウンド観光に関する調査実習や、中韓からの新規来住者の移動と関係する、東京のコリアンタウン(新大久保)・チャイナタウン(池袋)の見学を実施しており、国内においても中国や中国を含むアジアに関連する地域は、これら演習科目や卒業研究の研究対象となる。卒業論文や、ゼミにおける研修活動は、前述の基礎演習Bにおける「中国研究」への注意喚起、研究入門Aの試みのような「中国語を用いて(中国の)情報を得る」といった取り組みの先にある目標であるといえるだろう。また逆に3、4年次にこのような演習と活動があり、卒業論文を出す必要があることを低学年の学生に伝えることで、中国語学習と中国研究の双方が本学科の教育目標であることが理解されるものと考える。6まとめ本稿においては、中国語中国関係学科という、地域研究を中心とする学科において、語学学習と海外地域理解の両者の橋渡しをする試みについて、おおよそ3つの例を挙げて報告してきた。これらの試みを通じて理解されるのは、本学科では、学科での学習が「中国語学習だけではないこと」と、「学んだ中国語で情報を得る」を示しながら、その上で最終的なアウトプットが「中国研究」であることを意識させるという手法をとっているということである。また実際のところ、このような作業を行っているのは1年生から4年生まで毎期開講している演習科目だけである。このことから専門科目のうち、この部分だけが中国語学習と中国理解のジョイントになっている―40―澁谷鎮明・黄強

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